はじめに
レトロウイルスベクターについてのレビュー論文をあさっていたのですが、ウイルスベクターの基本的な仕組みやコンポーネントについて網羅的に記述されている文献を見つけることができませんでした。
いろいろなウェブサイトや文献から情報をかき集めてみましたので、ぜひ、ご参照ください。
ウイルスベクターの原理
一般に、レトロウイルスベクターは、ウイルスベクターとヘルパープラスミドの2つを活用する遺伝子導入システムです。
ウイルスベクターは大腸菌プラスミドとして構築されます。ベクターには、Long terminal repeat (LTR)と呼ばれる塩基配列2つの間に、パッケージングシグナルと標的発現遺伝子が挿入されています。
一方で、ヘルパープラスミドには、レトロウイルスを構成する遺伝子(gag-pol-env)が挿入されています。
2つのプラスミドを動物細胞にトランスフェクトすると、ヘルパープラスミドからウイルスタンパク質が発現します。ウイルスベクタープラスミドはRNAとして転写されると、そのパッケージングシグナルを指標に、RNAがウイルスタンパク質に封入されます。その後、ウイルスは細胞培養上清中に分泌されます。
このようにウイルスを産生する目的に使用される細胞は、パッケージング細胞と呼ばれます。また、パッケージング細胞に、ベクタープラスミドも導入され、持続的にウイルスを発現している細胞は、プロデューシング細胞と呼ばれます。
培養上清から回収されたウイルスは、濃縮された後、標的細胞への感染に使用されます。ウイルスに感染された細胞内で、ウイルスRNAはDNAに逆転写されたあと、宿主ゲノムの中に部位非特異的に挿入されます。
ウイルスベクター由来のRNAには、ウイルスの構成遺伝子が含まれていませんので、産生されたウイルス自身には複製能がありません。このため安全にウイルスを使用することができます。
ベクターコンポーネント
LTR
5’LTRと3’LTRは同一の配列で、ウイルスゲノムの両端に配置されます。5’LTRはウイルスゲノムの転写を促進するプロモーター、3′ LTRは転写を終結させるためのポリA付加シグナルとして、それぞれ機能します。
パッケージングエレメント(Ψ)
5’LTRの下流に存在する配列です。ウイルス粒子へウイルスRNAゲノムを封入するための配列です。
WPRE
Woodchuck hepatitis virus posttranscriptional regulatory element。パッケージング細胞内でウイルスRNAの安定性を高める働きがあります。
ウイルスタンパク質
- gag:構造タンパク質
- pol:プロテアーゼ、逆転写酵素、インテグラーゼ
- env:エンベロープ
エンベロープの種類によって、細胞への感染効率は変化します。
- ecotropic:同種指向性。マウス細胞を標的とする場合は、こちらの方が感染効率が高い。
- amphotropic:両種指向性。ヒト細胞に感染させるにはこちらを使わなければならない。
- pantropic:広汎性。すべての動物細胞に感染させることができる。VSV-Gが広く利用される。
代表的なパッケージング細胞
Plat-E
293T細胞由来のパッケージング細胞です。ウイルス構造遺伝子の効率的な発現のために、EF1αプロモーターが使用されています。ウイルス構造遺伝子と薬物選択マーカーを同時に発現するためのIRES、および効率的な翻訳のためのコザック配列が使われています。この細胞がブラストサイジンとピューロマイシンの存在下で維持されている場合、長期培養後でもpMXベクターの一過性トランスフェクションによって1×10^7 IU/mLを産生します。
ウイルスベクターの種類
ウイルスベクターは、高遺伝子発現または高力価のウイルス産生を目指して、改良が重ねられています。下記に代表的なウイルスベクターをお示しします。矢印は改変が加えられた親子関係を指します。2次情報を参照して記載したため、誤記があるかもしれませんことを、ご了承ください。
MMLV:Moloney murine leukemia virus。pMXなど。
↓
MESV:Murine embryonal stem cell virus
↓
PCMV:PCC4 cell passaged Myeloproliferative sarcoma virus
↓
MSCV:Murine stem cell virus
MPSV:Myeloproliferative sarcoma virus
MPEV:MPSVとMESVのハイブリッド。pMYなど。
FMCF:Friend mink cell focus-forming virus
FMEV:FMCFとMESVのハイブリッド。pMZなど。
参考資料


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