PCR酵素、どれを選べば・・・
PCR酵素は、現在さまざまな種類が市販され、どれを使用すればよいか悩む人も多いと思います。その主な原因として以下の4点があげられます。
用途に応じて酵素に必要な特性が変わること
基質特異性・合成速度・正確性・増幅遺伝子の特徴(GCリッチなど)に応じて選択される酵素の由来種や分子改変の方向性が異なり、種類が多様化します。
古い世代の酵素も継続して販売されていること
文献の再現性を確認する際には、あえて古い種の酵素を使用するケースもあるでしょう。安価でなく、使用感も異なることから、研究室で常備している酵素が何世代も前、ということもあるかもしれません。
組成が開示されていないこと
近年の酵素は天然型から遺伝子改変され、複数の酵素がブレンドされることが一般的ですが、ブランド名のついた製品は由来や改変が明記されていません。さらに添加物など組成も異なるため、内容物から機能的特徴を推測することは難しいです。
評価にメーカーの独自性があること
同じ条件で比較検討されたデータが少なく、サンプルの種類(サンプル純度や遺伝子配列の特徴)にも依存するため、特定のデータから正しく判断することは難しいです。
ハイフィデリティ酵素の汎用性
現在は酵素の機能増強やそれらのブレンドにより、複数の特徴をあわせもち汎用性をうたう製品が増えています。メーカーによっては、最初に検討すべきスタンダートとしてTaqポリメラーゼなどを推奨しているところもありますが、使い分けによる煩雑さや失敗リスクを考慮すると、それらの使用は費用対効果が高いといえないケースもあるでしょう。
そこで、この記事では、一般的な遺伝子工学実験に使用されるハイフィデリティポリメラーゼにフォーカスをあて、各メーカーの製品を紹介していきたいと思います。
1 PrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ)
世界最速の伸長性(5 sec/kb)です。
2 KOD One PCR Master Mix(東洋紡)
改変型KOD DNA polymerase(UKOD)を使用しています。
3 Q5 High-Fidelity 2X Master Mix(NEW ENGLAND BioLabs)
同社Phusionの2倍の正確性。
4 Platinum SuperFi II DNA Polymerase(Thermo Fisher Scientific)
バッファは 60°C でのアニーリング用に調製されているため、Tm 計算の必要はありません。
5 Expand High Fidelity PCR System(MERCK)
プレミックス品はありませんが、基質特異性、感度の高いFastStart High Fidelity PCRシステムもよい選択です。
6 PfuUltra II Fusion HS DNA Polymerase & PCR Master Mix(agilent)
Pfu-based fusion DNA ポリメラーゼです。
最後に
多様な遺伝子調製や用途でご利用の方は、ご自身の相棒となるPCR酵素を一つ見つけてトラブルシューティングの経験を積み使いこなすのがよいでしょう。また、ルーチンワーク用の実験系構築を目指す方は、複数のキットを用意し条件最適化のため比較検証するのもよいでしょう。
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