論文タイトル
Regulation of transcription factor function by phosphorylation
出典
Cell Mol Life Sci. 2000 Aug;57(8-9):1172-83.

読んだ動機
細胞外リガンド依存的に活性化するATFを作りたいと思っています。人工細胞膜受容体を介してATFを活性化する仕組みが一案かと思うと、リン酸化修飾により活性化するATFがあれば良いと考えました。天然の転写因子がリン酸化によって、どのように制御されるかについて解説されたレビューがあったので紹介します。
要旨
天然の転写因子がリン酸化修飾されたときの制御メカニズムについて解説した総説です。
章立て
- イントロダクション
- 細胞内局在の制御
- タンパク質分解の制御
- 転写活性化共因子との相互作用の制御
- 基本転写因子の複合体形成の制御
- DNA結合の制御
- クロマチン構造の制御
- リン酸化酵素・脱リン酸化酵素の転写因子への結合
- 結言
感想
本文の流れとしては、リン酸化が関与するメカニズムを分類したうえで、イントロに続く2~7章の中で、各メカニズムの仕組みやそれを採用する転写因子例を紹介しています。
細胞膜受容体とのコミュニケーションによる転写因子の活性化を目的とした場合は、核外で起こるイベントが望ましく、核局在やタンパク質分解が対象とすべきメカニズムと感じました。
まず一つ目が細胞内局在の制御ですが、転写因子においては主に核移行の制御を意味します。核への局在は核内局在化シグナル(NLS)と核外局在化シグナル(NES)によって制御されます。これらシグナル配列をマスクしたり露出したりすることで、核局在量がコントロールされる仕組みです。
NFATはセリンの脱リン酸化により核移行することが知られていますが、リン酸化修飾の修飾基そのものがNLSのマスクに直接関与しています(Fig2A)。
一方で、転写因子と相互作用する細胞内タンパク質の局在化シグナルを利用するケースもあります。FKHRL1はリン酸化されると14-3-3というシグナル伝達タンパク質と結合します。14-3-3は自身がNESを持つため、FKHRL1とともに核外へ移行するという仕組みです。
2つ目のトピックとして紹介されたリン酸化によるタンパク質分解制御については、ユビキチン化が主な役割を担います。
NFκBは通常細胞内でIκBと複合体を形成し、複合体として存在する限りはIκBのNESによって核外に存在します(Fig2B)。このIκBが一度リン酸化されると、それに応答してユビキチン化とIκBの分解がおこり、NESの寄与がなくなるとともに、NFκB自身のNLSも機能するため、核内に移行できるという仕組みです。
本論文ではSTATについても紹介されていました。これはリン酸化されると2量体化し、それに応じて核に移行するメカニズムを有しています。私の知る限りこれは唯ーリン酸化により核へ移行する、つまりONスイッチによって正の制御をおこなうことができる転写因子です。このためリン酸化シグナルを送るサイトカイン受容体を人工のセンサーとして活用する場合は、活性化する標的の転写因子として非常に有用なのではと感じました。
次に読みたい論文
論文最後にSTATについて言及しましたが、STATをエンジニアリングすることでリガンド応答性の転写因子をつくれないかと考えました。STATの2量化がどのように核移行に関与しているか分子メカニズムまで把握していなかったので、その詳細を確認していきたいと思っています。
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