【レビュー論文】レンチウイルスまとめ

論文タイトル

New developments in lentiviral vector design, production and purification

出典

New developments in lentiviral vector design, production and purification - PubMed
The principal hurdles toward the use of recombinant lentivirus as a gene therapy vector are the low titer at which it is produced as well as the difficulty to p...

確認したいこと

  • レンチウイルスベクターの仕組みや、広く用いられているコンポーネントについて

要旨

レンチウイルスベクターのデザインについてのレビュー論文です。

用語

  • LV: lentivirus
  • PCL: packaging cell line
  • VPCL: virus producing cell line

章立て

  1. 緒言
  2. レンチウイルスベクター
    1. バイオロジー 
    2. 特徴と用途 
    3. デザインの開発経緯
  3. レンチウイルスの生産プロセスの進展 
    1. 細胞株
    2. 一過性発現
      1. トランスフェクション試薬   
        1. リン酸カルシウム法   
        2. リポフェクション法   
        3. ポリエチレンイミン
      2. フローエレクトロポレーション  
      3. バキュロウイルス感染 
    3. パッケージング細胞とウイルス産生細胞 
    4. 生産プロセス、スケールアップ、培養添加物  
      1. 細胞培養システム  
      2. HYPERFlask  
      3. マイクロキャリア  
      4. 細胞懸濁液からのレンチウイルス産生  
      5. バッグ型のバイオリアクター  
      6. 酪酸ナトリウム  
      7. クロロキン  
      8. カフェイン
  4. レンチウイルスの産生後プロセス 
    1. 分離 
    2. 濃縮、精製、洗浄  
      1. 遠心分離  
      2. 限外ろ過  
      3. クロマトグラフィー   
        1. アニオン交換クロマトグラフィー   
        2. アフィニティクロマトグラフィー   
        3. サイズ排除クロマトグラフィー 
    3. 核酸分解 
    4. 滅菌ろ過、保存 
    5. 品質評価、精製ウイルスの保管
  5. 専門家の見解

解説など

レンチウイルス(LV)の生産について、非常に幅広く解説されています。2、3章は、非臨床研究を含めて参考になる、原理やベクターデザイン、ウイルス産生の情報が中心です。4章は、臨床で利用される大規模生産に特化した内容でした。以下では主に、2、3章の内容を中心に説明します。

ウイルスベクターの構成要素

ウイルスの主要な構造

ウイルスにはプラス鎖のRNAが2コピー含まれています。RNAは、ウイルス内で以下の2つと複合体を形成しています。

  • ヌクレオカプシド(NP)
  • pol: インテグラーゼ、逆転写酵素、プロテアーゼをコード

NPは、カプシドタンパク質(gag)によって形成される殻により包まれます。さらに、gagの外側を脂質エンベロープが取り囲んでいます。エンベロープには、ウイルスエンベロープ糖タンパク質(env)が組み込まれています。

その他のウイルス遺伝子として、2つの調節遺伝子(tatと、rev)と、4つのアクセサリー遺伝子(nef, vif, vpr, vpu)が存在します。これらは、ウイルスの複製、感染、ウイルス細胞外放出などに関与します。

非翻訳領域
  • LTR (long terminal repeat):プロモーター、転写終結などに関与
  • パッケージングシグナル (Ψ):RNAのウイルスへの封入に関与
  • PPT (polypurine tract):逆転写中のDNA合成の開始点

ベクター開発

第1世代

HIV由来のゲノム配列に従って、以下の3種類のプラスミドを使用するのが、第1世代のLVベクターです。

  1. すべてのtrans acting sequenceをもつプラスミド(パッケージングプラスミド)
  2. 異種のエンベロープをコードするプラスミド
  3. 外来プロモーターによって発現が誘導される、すべてのcis acting sequenceと、GOIを含むプラスミド(トランスファープラスミド)
第2世代

第2世代のパッケージングプラスミドと、トランスファープラスミドの2種で構成されます。第1世代のデザインに対して以下の変更がなされています。

  • 自発的なウイルス複製を抑制するために、配列のオーバーラップを除去
  • vif, vpr, vpu, nefなどの不要な遺伝子を除去

トランスファープラスミドには、自己不活性化構造(self-inactivating, SIN)を採用することがあります。これは、3’LTRのU3領域が欠失しているため、遺伝子導入後に、ウイルス遺伝子の転写不活性化を引き起こします。従って、LTR非依存的に、任意のプロモーターで転写制御をおこなうことが可能になります。または、U3領域に最小限のテトラサイクリン誘導性プロモーターを有するSIN(conditional SIN, c-SIN)が用いられることもあります(後述のウイルス産生細胞を参照)。

第3世代

第3世代では、さらに以下に例を挙げる改良が1つ以上加えられています。

  • rev遺伝子を別のプラスミドから発現させる、スプリットゲノムパッケージングシステムを採用
  • ゲノム内の遺伝子組み換えを回避するため、5’LTRのU3領域をtat非依存性プロモーターに置換
  • 異種細胞での遺伝子導入効率を向上するため、central PPT-central 終結配列を付与
  • 遺伝子発現を向上するため、CMVプロモーターと、post-translational coltrolエレメントを付与
  • ウイルスタイターを高めるため、WPRE配列を付与
  • SINベクターの導入効率を向上するため、3’LTRのU5領域を牛成長ホルモン由来のポリアデニル化配列に変更
  • 導入遺伝子のサイレンシングを抑制するため、クロマチンインスレーターを付与
  • rev応答エレメントの代替として、構成的輸送エレメント(CTE)を多コピー挿入
  • 細胞膜へのgag輸送を補助するgagのミリストイル化シグナルを、コドン最適化されたホスホリパーゼC-d1相同ドメインに置換

エンベロープを、異種の遺伝子に置換することは、以下のような意義があります。

  1. ベクター安全性の向上
  2. 標的細胞に対する親和性、特異性の向上
  3. ウイルス保存安定性の向上

VSV-Gは最も広く利用されるエンベロープです。安定で、超遠心により濃縮することができます。幅広い動物細胞と親和性が高いため、広範囲の細胞に対して遺伝子導入が可能です。

インテグラーゼコード領域の変異により、インテグラーぜ活性を消失したウイルス(NILV)も開発されています。これにより遺伝子のゲノムへの挿入を回避されます。NILVと非遺伝毒性性のインテグレーションツール(Sleeping Beauty トランスポゾンやジンクフィンガーヌクレアーゼ)と組み合わせたハイブリッドベクターにより、目的遺伝子を安全に組み込むことができます。

トランスフェクション法

以下のトランスフェクション法が広く用いられています。

  • リン酸カルシウム法 血清またはアルブミンが必要、トランスフェクション後培地交換が必要、pH変動に影響をうける
  • リポフェクション法
  • ポリエチレンイミン(PEI) 細胞毒性があるかも
  • フローエレクトロポレーション
  • バキュロウイルス感染 大規模生産が容易、無血清条件、製造承認済み

細胞株

HEK293由来の細胞が広く使用されています。

HEK293Tは、SV40の複製機転を含むプラスミドの複製を可能にします。HEK293Tは親株よりも早く増殖し、ベクター生産性も4倍高いことが知られています。HEK293Eは、EBV核抗原1を発現し、EBV複製起点をもつプラスミドのエピソーム持続性を高めます。

ウイルス産生に必要な遺伝子をあらかじめ組み込み、安定的に発現する細胞が使用されることもあります。

  • パッケージング細胞(PCL): trans acting コンポーネントを安定的に発現
  • ウイルス産生細胞(VPCL): すべてのコンポーネントを安定的に発現

SINは遺伝子に組み込まれるとLTRが機能しなくなるので、SINベクターは別途トランスフェクションする必要があります。これはconditional-SINを使うことで解決されます。

VSV-G, rev, プロテアーゼなどは、過剰発現すると細胞に毒性を示すため、Tet-on/off システムによりVSV-Gとgag/polの発現を調節することが望ましいです。Tet-on系であれば、大規模生産にも適応可能です。tetracycline/cumateのダブルスイッチ系を利用した、HEK 293 SF-PacLVというパッケージング細胞も存在します。

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