論文タイトル
Effective Use of Linear DNA in Cell-Free Expression Systems
出典
Front Bioeng Biotechnol. 2021 Jul 20;9:715328.

確認したいこと
引き続き、無細胞タンパク質翻訳系の構成要素や改良系について調査しました。
要旨
無細胞翻訳系に、線状化DNAを利用する手法と、その応用事例について解説されたレビュー論文です。
用語
- CFE: cell-free expression system
- LETs: linear expression templates
章立て
- 緒言
- 線状化DNAの安定化技術
- ヌクレアーゼのゲノム編集
- ヌクレアーゼの阻害
- LETの修飾
- 低温度培養
- LETの応用事例
- 遺伝子回路設計
- RNAトグルスイッチ
- CRISPR-Cas
- 毒性タンパク質の発現
- その他
- LETシステムの将来展望
- LETシステムによる発現量のさらなる改善
- 交絡作用回避のためのLETの利用
- アプタマー
- 結言
解説など
無細胞翻訳系において、遺伝子に線状化DNA(LETs)を用いることができれば、発現タンパク質の評価リソースを大きく削減できます。
LETを実現可能とするための最大の課題は、翻訳系に存在するヌクレアーゼによる、線状化DNAの分解です。本論文では、DNA分解を抑制できる、以下の3つのアプローチを順に紹介しています。
- ヌクレアーゼのゲノム編集
- ヌクレアーゼの阻害
- LETの修飾
各手法のカテゴリー、名称、発現量改善程度(~fold or % improvement) が、表1にまとめられていますので、そちらをご参照ください。以下には、各手法の詳細について記述します。
ヌクレアーゼゲノム編集は、CFEの由来生物に存在するヌクレアーゼ遺伝子を、欠失または改変する方法です。
エキソヌクレアーゼVの遺伝子であるRecBCDを欠損することで、発現量を向上することができます。RecBCDの完全なノックアウトは、大腸菌の増殖を抑制するため、RecBCDをバクテリオファージλのRed系に組み替えることで、それを回避する手法も存在します。
またRedDやPNPaseをコードする遺伝子に、ストレプトアビジン結合ペプチドタグを挿入することで、抽出物からヌクレアーゼを除去する手法も存在します。
2つ目は、ヌクレアーゼの活性を阻害する方法です。この方法で広く用いられている手法は、バクテリオファージλタンパク質のGamSを添加することです。GamSは、RecBCDの阻害剤であるため、線状化DNAの保護に寄与します。
GamS添加の他には、ChiDNAを使用する手法があります。ChiDNAは、短いDNAモチーフを含むdsDNAオリゴです。RecBCDの認識配列として作用するため、ヌクレアーゼの活性を阻害することができます。
LETと結合することで分解を保護する、ヌクレアーゼ阻害剤も存在します。ssCroやKuはその代表的な分子です。
3つ目のDNA分解抑制手法は、LETそのものを修飾する方法です。damメチルトランスフェラーゼによるDNAのメチル化や、ホスホロチオエート(PT)結合により、DNAの分解を抑制することができます。
DNAを環化することも、分解耐性を増すために有効です。再環状化されたDNAは、ローリングサークル増幅法(RCA)で増幅することで、翻訳に使用することができます。
鋳型DNAの構造が変われば、従来のプロモーターや発現生物種をそのまま踏襲する根拠は弱くなると、本論文では主張されています。線状化DNAを用いる手法の開発は比較的新しく、システムを最適化する余地がまだあるといえるでしょう。
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