論文タイトル
In vivo DNA assembly using common laboratory bacteria: A re-emerging tool to simplify molecular cloning
出典
J Biol Chem. 2019 Oct 18;294(42):15271-15281.

確認したいこと
先に紹介した論文から引き続き、さらにin vivoクローニングに特化したレビュー論文がありましたので、詳細を追ってみます。
要旨
RAIRと呼ばれるRecA非依存的DNA組み換えについて、そのメカニズムと遺伝子工学への応用を解説したレビュー論文です。
用語
RAIR: RecA-independent recombination
章立て
- 緒言
- 大腸菌のRecA非依存的組み換え機構を利用したDNAのアセンブリ法を使う
- 歴史的な視点:なぜRAIRは汎用的に利用されていないのか
- 組み換えメカニズム:ブラックボックスを明らかに
- 他のクローニング手法の中で正しく評価されていないRAIRの役割
- 分子クローニングにおけるRAIRの利用ロードマップ
- シングルチューブPCR
- マルチチューブPCR
- ベクターの制限酵素切断
- 遺伝子合成
- RAIRを利用したクローニング効率の最適化
- プライマーデザイン
- ホモロジーデザイン
- PCRの最適化
- PCR後のDNA処理
- トランスフォームと宿主
- 結言と将来展望
解説など
本論文では、in vivoクローニング(DNAアセンブル)手法の中でも、RecA非依存的な相同組み換えメカニズムにフォーカスして解説されています。
RAIRとは
大腸菌のin vivoクローニングには、相同組み換え能力が増強された大腸菌株が必要であると一般的には主張されます。具体的には、内因性のRecAやファージ由来のRecE/RecTなどのリコンビナーゼ酵素の活性を強めると、in vivoで相同配列を引き起こすことが知られています。
一方で、本論文で言及するRAIRとは、汎用的にラボで利用される大腸菌でも起こり得るin vivo相同組み換えメカニズムです。RAIRを利用することでも、末端に相同配列を含むDNA断片を連結して、環状のプラスミドを構築することができます。
競合技術との位置づけ
本手法がこれまで他の手法に比べて、日の目をみることが少なかった理由を、この論文では以下のように挙げています。
- PCRに依存した手法であった
- 長いプライマーを必要とした
- RecET経路によるクローニング手法と混同された
- 組み換えメカニズムが不明であった
上記の理由は、RAIRが提案された時代背景に依存した内容であり、現在とは状況が異なると筆者らは述べています。また、In-fusionやGibson assemblyなどのin vitro相同組み換えによる遺伝子効率も、結局RAIR機構によるin vivo相同組み換えによって、高められている可能性があるといいます。
RAIRのメカニズム
以下のようなRAIRに関わるメカニズムが知られています。
- DNAの線状化が必要である
- フラグメント末端から180bp以内で組み換えがおこる(最末端である必要はない)
- 組み換えにはexonuclease IIIが必要
- RecBCDなど、他のエキソヌクレアーゼを必要としない
- DNAポリメラーゼIの活性が大きく寄与している
RAIRの利用
RAIRを活用した手法には、配列の挿入、欠失、点突然変異誘発、サブクローニング、ライブラリー作成など、様々な応用例が存在します。
本手法を活用するTipsとしては、以下が挙げられます。
- 200bp未満の小さなDNA断片の組み換え効率は低い。
- 15-30bpの短い相同配列を効率よく結合する。
- クローニング効率は、相同配列のアニーリング強度(Tm)に依存する
- 最大6個までのDNA断片をアセンブルすることができる。断片数が増えるほどクローニング効率は低くなる。
- 3断片以上の組み換えを行う場合は、Tmを増加させる(60-65℃)と良い
- 挿入断片/ベクター比を増加させることで、クローニング効率を高めることができる。
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