【ウェアラブルバイオセンサ】非侵襲性バイオマーカー検出の今②

論文タイトル

Wearable biosensors for healthcare monitoring

解説など

本記事は、以下の記事のつづきになります。まずはこちらからご覧ください。

プラットフォームについて

表皮装着型

ここからは、プラットフォームの各論についてです。まずは表皮装着バイオセンサについて説明します。表皮状の被験物質は主に、汗とISFがあります。それぞれに含まれる測定候補分子は以下のとおりです。

  • 代謝物:乳酸塩、ブドウ糖、尿素、エタノール、コルチゾール
  • 電解質:ナトリウム、カリウム、塩素、アンモニア
  • 微量元素:亜鉛、銅
  • 高分子物質:タンパク質、核酸、神経ペプチド、サイトカイン
ISF
  • 電解質:ナトリウム、リン酸塩、マグネシウム、カリウム、カルシウム
  • 代謝物:ブドウ糖、アルコール、乳酸塩、コルチゾール

このほかにも、分泌物そのものに付随する情報として、発汗率などが測定対象となります。これは分泌物の多重解析、皮膚インピーダンス測定で評価することができます。

汗を評価するうえでの特徴の一つとして、分泌に身体運動を必要とするため、持続的なモニタリングは難しいことが挙げられます(発汗刺激剤を用いる方法も)。

表皮測定では、グルコースの他、アルコールを検出することができます。これによって血中アルコール濃度を測定することが可能になります。また、皮膚表面自体も検出対象となり得ます。例えば表皮に存在するチロシナーゼ酵素を検出することで、黒色腫のスクリーニングに応用できる可能性があります。

表皮測定の課題としては、以下3点が挙げられていました。これらは程度の差こそあれ、いずれのプラットフォームにおいても、課題となり得る要素であると思います。

  • 長期使用
  • 同時分析
  • 効率的な試料のサンプリング
眼装着型

眼に装着するタイプのバイオセンサでは、主に涙液がサンプリングの対象となります。涙液には、タンパク質、ペプチド、脂質、代謝物、電解質など、様々な物質が含まれています。また涙中と血中のグルコース濃度には相関があることが知られており、涙によるグルコースセンサも有望な活用法の一つです。

涙を評価するときの課題としては、サンプリングの難しさが挙げられます。これは蒸発がしやすく、また1日の中で組成変動が大きいことが主な原因です。また測定精度は収集方法に強く依存することが知られています。毛細管やシルマー試験紙でサンプリングするのが一般的です。反射的に分泌される涙は、基底涙とは組成が異なるので、目に刺激を与えないサンプリング手法であるべきといえます。

プラットフォームとしては、コンタクトレンズ型がメインです。一般的なコンタクトレンズで利用される軟質素材が使われています。グルコース濃度の測定を例に挙げると、コンカバリンAやフェニルボロン酸誘導体とグルコースの相互作用に基づく工学測定法などが開発されています。

グルコース濃度以外では、将来的にカテコールアミン濃度の測定に基づく緑内障の診断などが考えられます。

口腔内装着型

口腔内のサンプリング対象は唾液です。唾液は「人体の鏡」と呼ばれるように、血流から直接通ってくる分泌物ですので、身体の生理学的な状態を反映しやすいことが特徴です。一方で唾液タンパク質の含量が多い分、標的バイオマーカーを特異的な検出が難しいことが、課題になります。サンプリングの採取のしやすさは、どうしてもサンプル汚染とのトレードオフになりがちなのだと思います。

プラットフォームとしては、義歯型やマウスガード型の開発例があります。測定対象としては、咀嚼・プラーク・pH・フッ化物濃度のモニタリングや、乳酸測定によって、身体的ストレスの評価などが挙げられます。また、尿酸検出によって、高尿酸血症、痛風、神経症候群のモニタリングができる可能性があります。

本文で解説されているデバイスのほとんどは、開発段階のもので、市場に出ていないものも多く、本文の内容から数年先の展望をイメージすることができます。一方で、材料科学や検出メカニズムに関連する記述は、初学者にはなじみのない点が多く、個人的にはさらなる学習が必要に感じました。

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