論文タイトル
Comprehensive binary interaction mapping of τ phosphotyrosine sites with SH2 domains in the human genome: Implications for the rational design of self-inhibitory phosphopeptides to target τ hyperphosphorylation signaling in Alzheimer’s Disease
出典
Amino Acids. 2022 Jun;54(6):859-875.

確認したいこと
細胞内シグナル伝達を制御する目的で、リン酸化モチーフ×SH2ドメインの相互作用を人工的にデザインするための計算手法を検討してみたいと思っています。早速既存のアプローチについて調査してみました。
要旨
τ(タウ)タンパク質のリン酸化修飾ドメインと、細胞内タンパク質との相互作用を計算化学的な手法で同定した報告です。
解説など
細胞内のシグナル伝達に関連するタンパク質は、リン酸化修飾を伝達のスイッチとして、その活性をON/OFF制御します。タンパク質がリン酸化されると、リン酸化モチーフに特異的に結合するSH2ドメインをもつ細胞内タンパク質が結合することができるようになり、カスケード的にシグナルが伝達される仕組みです。細胞内には、ホモロジーの高いSH2ドメインをもつタンパク質が複数存在するのですが、どのSH2ドメインがどのリン酸化モチーフに結合するかは、そのモチーフ配列に依存します。
τタンパク質は、アルツハイマー(AD)の原因物質として考えられている分子です。このタンパク質もリン酸化修飾されることが知られているのですが、ADが進行すると、そのリン酸化量も亢進します。したがって、τタンパク質のリン酸化が細胞内のシグナル伝達に与える可能性が考察されています。
本論文では、τタンパク質に存在する複数のリン酸化モチーフを対象に、どのタンパク質のSH2ドメインに結合するかを網羅的に探索しています。筆者らは網羅的な探索のために、τタンパク質のリン酸化モチーフとSH2ドメインとの複合体構造を、計算化学的な手法を用いてモデリングすることで、τタンパク質に結合するSH2ドメインの同定を試みています。
対象とするSH2ドメイン群は、UniProtから検索した120種です。MSAで相同性を評価しています。基本的にSH2ドメインは高度に保存されています。しかし既存の報告から少数の残基差異で結合するリン酸化モチーフが変わることも知られているので、注意が必要です。
τタンパク質に存在する6種のリン酸化ペプチド側は、PCAで分類し、各モチーフの相対的な差異を分析しています。
最後にSH2ドメインとリン酸化モチーフの組み合わせ720種を、包括的な相互作用マップ(CBIM)で描画しています。また筆者らは、CBIMから相互作用するであろう70種類の組み合わせを同定しています。
本手法にリン酸化ペプチドを探索するアルゴリズムを導入することで、任意のSH2ドメインに結合することができるリン酸化モチーフを、デザインすることも可能に感じます。SH2ドメイン間の交差性を厳密に制御することはそのホモロジーの高さからハードルが高く、それをどういう風に克服することができるか、考えていけたらと思います。
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