論文タイトル
Structural basis of assembly of the human T cell receptor-CD3 complex
出典
Nature. 2019 Sep;573(7775):546-552.

確認したいこと
CARの抗原非依存的な活性化を改善するため、nativeTCRのシグナル伝達メカニズムを再現できればと考えています。TCRのメカニズムにはいまだ解明されていないため、現時点での情報をアップデートしたいと思います。
要旨
TCR-CD3の、cryoEMでの8量体複合体構造の解析結果を紹介しています。
用語
- TCR: T cell receptor
- ECD: Extracellular domain
解説など
TCR-CD3複合体は、pMHCによるT細胞への刺激を細胞内伝達するのに必須な受容体です。TCRα/TCRβ、CD3γ/CD3ε、CD3δ/CD3ε、CD3ζ/CD3ζの4つの2量体が、非共有結合で複合体を形成しています。TCRはT細胞の活性化に重要な分子ですが、以外にもそのシグナル伝達メカニズムは解明されていません。
本論文は、このTCR-CD3の8量体構造を、cryoEMで解析した結果を紹介しています。
本文では、同定した構造から各鎖間の相互作用領域に言及しています。大局的にはTCR鎖が8量体の中心に位置し、TCRは全ての2量体鎖と相互作用しています。
既知のリガンド未結合/結合型のCD3TCR構造と比較すると、本論文で同定した複合体構造におけるTCRのECDドメインとは、大きな構造の差異がみられなかったとのことです。このことから、ECDの構造変化はシグナル伝達に重要でない可能性が示唆されます。この結果は既往の報告とも一致します。一方で既報のNMRを用いた研究ではTCR ECDの構造変化が示唆されているため、今回報告された構造はスナップショットを捉えている可能性も否定できません。
またOKT3(TCRアゴニスト活性を示す抗CD3モノクローナル抗体)のエピトープは、TCRβのFGループであることから、FGループとの相互作用がリガンド結合を細胞内に伝達するカギになっている可能性が指摘されています。
追加調査したいこと
次の記事では、これまでに提唱されたTCRのシグナル伝達メカニズムに関わる仮説を整理して紹介したいと思います。
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