論文タイトル
The structural basis of T-cell receptor (TCR) activation: An enduring enigma
出典
J Biol Chem. 2020 Jan 24;295(4):914-925.

確認したいこと
要旨
TCR/CD3のシグナル伝達メカニズムを詳述したレビュー論文です。
章立て
- 緒言
 - TCR-CD3の複合体構造
 - TCRのメカノセンサー機能
 - TCR-pMHC複合体の応力による構造変化
 - pMHC結合時のNMRおよびMD解析
 - 分子動力学シミュレーション
 - アロステリックなシグナル伝達の可能性
 - TCRのアロステリック機構に対する肯定理由と否定理由
 - TCR-CD3 TM領域におけるpMHC依存的な構造変化
 - TCR-CD3細胞尾部におけるpMHC依存的な構造変化
 - 結言と今後の方向性
 
解説など
前記事でも述べたように、TCR/CD3のリガンド依存的な受容体の活性化機構はわかっていません。いまだに複数の仮説があり、どれが正しいのか、複数のメカニズムが相乗的に起こっているのか、断定できる状況にありません。本論文では、これまでに提唱された様々な仮説を振り返り、それらを補強するデータや反証するデータを丁寧に列挙しています。
受容体は、細胞膜表面に露出する細胞外ドメインと、シグナルを細胞内に伝達する細胞内ドメインをもちます。つまりリガンド刺激が細胞外ドメインに与える影響(①)と、リガンド刺激が細胞内ドメインに与える影響(②)に分けて、現象を分類することができます。
まず、入力側となる細胞外ドメインにリガンド刺激が与える影響には、以下のような説が考えられます。
- 受容体細胞外ドメインの構造変化
 - 受容体の凝集化
 - 受容体発現T細胞と抗原発現細胞間の近接
 - 受容体へのせん断応力
 
次に出力側となる細胞内ドメインに伝達される効果には、以下のような仮説が挙げられています。
- 受容体細胞内ドメインの構造変化
 - Lck(ITAMモチーフのリン酸化酵素)の近接
 - CD45(ITAMモチーフの脱リン酸化酵素)の解離
 - 細胞膜に吸着しているITAMモチーフが細胞内に遊離する
 
リガンド結合による、受容体の構造変化は、リガンドと受容体以外の分子の影響を考慮する必要がないシンプルな現象なので、まず初めに疑うべき点なのですが、結晶構造解析やCryoEMなどによる解析ではTCRやCD3の主要なドメインの構造変化は認められないとする報告が多くあります。そこにはデータの解像度が十分でないことや、静的な構造では捉えられない(NMRではリガンド結合に依存的なピークシフトが検出される)などの問題点があります。
また、分子・細胞間の距離や、メカニカルシグナルは、その精緻な検出が難しいことから、断定的な情報が得られない問題があります。
筆者らは、以下の3点がリガンド結合メカニズムの解明に重要な役割を果たすであろうと結んでいます。
- TCR-CD3-pMHCの構造決定
 - 細胞質ドメインの可視化のため、ナノディスク、両親媒性物質を用いたタンパク質調製系
 - 応力を検出する方法
 
TCR/CD3はCAR-Tのエンジニアリング対象として、中心的な役割を果たしていますので、早期に解明されることを期待しています。個人的には現在の計算化学的な手法からアプローチできないかと思うところです。

  
  
  
  

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