論文タイトル
Structural basis for bispecific antibody design: arrangement of domain linkage produces activity enhancement
出典

要旨
T cell engager の活性が 2 つの Fv の連結角によって大きく異なり得ることを、構造的な観点から考察した論文です。
解説など
本論文は2重特異性抗体の薬理活性が各々のFvドメインの構造的な配向で制御されていることを示しています。この論文で対象としている2重特異性抗体は、CD3 (T cell) x Tumor antigen を認識する、いわゆる T cell engager と呼ばれるものです。がん特異抗原に結合する Fab と、CD3アゴニスト作用を介して T cell を活性化する Fab を組み合わせて、腫瘍細胞特異的に T 細胞の免疫活性を促すモダリティです。
既報の T cell engager の一つとして Ex3 と呼ばれるクローン名の diabody があります。これは片腕が 抗 EGFR Fv で、もう一方が抗 CD3 Fv の 2重特異性抗体です。
筆者らはこの diabody デザインを、N末からL→Hと連結したコンストラクトと、H→Lと連結したコンストラクトで活性を比較したところ、大きくその薬理活性が異なることに着目し、それが構造的な制約によるものであることを明らかにしました。
具体的なメカニズムは、本文の図(Fig 2e)を見ていただくのが、一番わかりやすいのでぜひ原著をご覧ください。概要としては、2つの抗原は、それぞれ異なる細胞に発現された膜タンパク質でありますので、diabody を挟んで垂直方向に配置されなければならないのですが、H→L型のコンストラクトではそれが達成できないため、3者複合体の形成が難しく、活性が弱いのではないかと考察しています。
このような現象は、異なる2つの細胞膜に局在しているという制約でないと発生しないので、リコンビナントタンパク質で3者複合体の形成率を評価するような試験では検知できないことに気を付ける必要があります。また、このようにドメイン間のつなぎ方を変更するだけで、大きく活性に影響し得ることも意識するべき良い教訓となると思います。