論文タイトル
Deciphering binding site conformational variability of substrate promiscuous and specialist enzymes
出典

要旨
酵素の基質特異性にかかわる構造的特徴を、MDシミュレーションで解析した結果を報告した論文です。
解説など
酵素は、基質特異性が緩い”promiscuous enzyme”と、特定の基質に対して高い特異性をもつ”specialist enzyme”に分類することができます。
このような酵素の基質認識を決定づける要因が何であるかは、これまでにも様々なアプローチで解析されてきました。また、分子進化学的な手法で酵素をエンジニアリングすることで、その基質特異性を改変できた実績からも、そのメカニズムをある程度洞察することができます。
過去の解析から一般に広く伝えられている主張として、”promiscuity” の高い酵素ほど構造の多様性が高い、と考察されています。筆者らは、この事実を確かめるべく、MD シミュレーションを駆使した解析を実施しています。
具体的には、長時間 (1.5 μs) にわたる平衡 MD 解析を実施して、”native functionality score” という指標を計算しています。これは静的な構造類似性を示す RMSD とは異なり、MDシミュレーションから導ける基質結合残基の相互作用距離に基づいて計算される、酵素の活性サイトの構造類似性を示す指標です。
また、tICA (time-structure independent component analysis)と呼ばれる解析結果に基づいて、生成された構造ステートをクラスタリングして、酵素の構造多様性を評価する手法も活用しました。
これらの解析手法を、以下4種類の酵素に適用して、promiscuous/specialist それぞれに属する酵素の差異について考察しています。
Promiscuous
- cytidine deaminase
- dihydrofolate reductase
Specialist
- erythritol kinase
- p-hydroxybenzoate reductase
各論は、原著をご覧いただきたいのですが、結果として、”specialist” 酵素は、”promiscuous”酵素と同様に構造多様性を示すという結果が示されました。この結果から基質認識にかかわる “promiscuity” はその特徴の有無は明確に2分されるものではなく、連続的に変化し得るものであると、主張しています。このことは分子進化により酵素の基質特異性を改変できる事実とも一致します。また、実際に酵素が機能する細胞内では、他の因子との相互作用によりその活性が制御される場合もありますので、無細胞系では基質特異性の低い酵素も、一時的にその特異性を高める可能性も考慮に入れる必要があるとのことです。