論文タイトル
Tuning antibody stability and function by rational designs of framework mutations
出典
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要旨
抗体の安定性や機能を CDR(相補性決定領域)ではなくフレームワーク領域(FW) に着目して合理的に改変する方法を提案・実証した研究です。
解説など
筆者らは熱安定性の高い抗体分子の変異設計をフレームワークを対象に実施しています。彼らのアプローチの特徴は、「FWの全領域を対象」に、「Rosetta のΔΔGを活用して候補改変をスクリーニング」した点です。
PLMを活用した配列設計だと、抗体特化モデルは末梢血由来のナイーブ性の配列を重視して学習されるため、安定性改善のための改変を積極的に提案することができません。このことは先行事例がESM2のような汎用モデルを中心に報告されていることからも伺えます。
筆者らのスクリーニングフローは次のとおりです。
探索範囲:VH/VL全残基のΔΔGfolding
- trastuzumab Fab構造(PDB 7mn8) を入力に、Rosettaの point mutant scan (pmut_scan) を使用。
- VHとVLの 全残基ポジションについて、それぞれのアミノ酸を残り19種に置換し、ΔΔGfolding を計算。
- ΔΔG < 0 → 安定化
- ΔΔG > 0 → 不安定化
- 全変異のうち ~94%が不安定化予測であり、元のtrastuzumabがすでに安定化された構造であることを確認。
ダブル変異の同定方法
- シングル変異スクリーニング
- まず全ポジションのシングル変異ΔΔGを計算。
- その中から安定化予測が得られたFW変異を候補に。
- ダブル変異スキャン
- シングルで安定化予測された変異を組み合わせ、相乗効果や補償効果を探索。
- 例:
- A40R と K43D → 単独ではどちらも不安定化だが、組み合わせると安定化。
- R50S+R59N → 予測は安定化だが、実験では抗原結合を失う。
- S85N+R87T → 安定化に加えて機能保持(ただし新規N型グリコシル化サイトも出現)。
- フィルタリング
- ΔΔG安定化予測に加えて、腫瘍B細胞リパートリーに見られる残基分布とも照合。
- 自然界で許容される残基置換を優先して候補を絞り込み。
ご覧のとおり非常に単純で古典的な方法です。本手法により実際に、Tm が改善する改変を同定することに成功しています。興味深いのは Q89A という変異が抗原結合は維持するのに、ADCC活性が低下しているということです。筆者らはMD解析によりVH–VL界面 → CH1/CL定常領域 → Fc部分へとダイナミックな情報伝達が及び、Fcの機能に影響を与えたと考察しています。


