論文タイトル
Ligand-induced assembly of antibody variable fragments for the chemical regulation of biological processes
出典
要旨
抗体スキャフォールドを活用した Chemically induced dimirization (CID) システムを開発した論文です。
解説など
スロベニアの国立化学研究所からのレポートです。CID とは、リガンドの結合に応じて「糊」として機能し、スキャフォールドがアセンブルするシステムです。
抗体をスキャフォールドに CID を設計する場合は、まず低分子リガンドに結合する抗体クローンを同定し、そのVH/VLを独立して発現させることで、リガンド結合により VH/VL が再構成することに期待します。VH/VLの相互作用界面が一時的に露出するので、既往の報告から物性に与える影響は低いとのことです。FKBP-FRB など従来型の CID システムに比べ免疫原性が低いことが、抗体ベースの CID のメリットです。
筆者らは、CIDのリガンドに以下の3種類を活用しています。
- β-estradiol: 膜透過性、生体毒性あり
- nicotine: 膜透過性、生体毒性あり
- fluorescein: FDA承認、生体不活性、膜透過性なし
上記の特徴から、β-estradiol と nicotine は細胞内での活用、fluorescein はより臨床利用を志向した用途へと使い分けています。
CID システム単体では、VH/VL がリガンドに応じて自己集積するだけでそれ以上の機能は持ちませんので、通常 CID の2分子それぞれに近接すると活性化する別の機能ドメインを付与します。本論文ではその応用事例として、以下の活用を紹介しています。
- dCas9 による遺伝子発現制御
- CAR-T のキメラ受容体
- T cell engager (BiTE)
エンジニアリングに関する Tips にはあまり言及がありません。CID (VH/VL) と機能ドメイン (Component A/B) 間の組み合わせや、N-ter/C-ter のどちらに融合するかで活性が変わる、といった程度です。そもそも CID に適した抗体クローンの選び方や、物性上の課題があった場合の改善方法があると良かったです。