【タンパク質構造解析】タンパク質の「モジュール性」とは

論文タイトル

Quantifying protein modularity and evolvability: a comparison of different techniques

出典

Biosystems. 2012 Oct;110(1):22-33.

Quantifying protein modularity and evolvability: a comparison of different techniques - PubMed
Modularity increases evolvability by reducing constraints on adaptation and by allowing preexisting parts to function in new contexts for novel uses. Protein ev...

確認したいこと

タンパク質の構成要素を、分解して考察した研究事例

要旨

タンパク質のモジュール性を定量化する指標となる「モジュール密度」の提唱と、モジュール密度を計算するために必要な2つのモジュール同定手法(推定的基準と共進化的基準)について解説された論文です。

章立て

  1. 緒言
    1. 生物におけるモジュール性の概念
    2. モジュール性と進化の関係
    3. タンパク質進化における、モジュール性の研究進捗
  2. タンパク質のモジュール性を定量化する
    1. モジュール密度で、タンパク質のモジュール性を定量化
    2. タンパク質モジュールを同定するための、推定的基準
      1. トポグラフィーまたは幾何学モジュールとして同定されたドメイン
      2. ドメインよりも小さい、トポグラフィーまたは幾何学モジュール
      3. モジュールとしての二次構造要素
      4. 推定的基準の限界
    3. タンパク質モジュールを同定するための、共進化的基準
      1. タンパク質配列内の、アミノ酸保存ブロック
      2. タンパク質内の共進化クラスター
      3. タンパク質内の共進化的相互作用の領域長
      4. 共進化的基準の限界
  3. 結言と今後の展望
    1. タンパク質モジュール性の進化的原因を、究明する取り組み
      1. 構造の進化とモジュール
      2. アミノ酸残基と共進化的モジュールの間の、エピスタティック相互作用の進化
    2. タンパク質モジュール性の進化的結果を、究明する取り組み

解説など

タンパク質のモジュール性とは、対象となるタンパク質にどれくらいモジュールが含まれているかで示されます。ここでいうモジュールとは、以下2つの特徴をもった構造単位を指します。

  • それ自体の外側の要素に、影響を及ぼさない
  • その機能性が、自身の外側の要素に依存しない

タンパク質の進化過程では、モジュールをひとつの単位として、変異や組み換えが起こりやすいと考えられます。タンパク質が機能するためには、安定的な構造が必要ですが、一方で多機能性を保つためには、ある程度の柔軟性(頑健性)が必要です。従って様々なタンパク質は、ある部分は高度に保存される一方で、その周囲の配列では非常に可変性が高いことが知られています。

このモジュール性と進化の因果関係を明らかにすることが、一つの研究目標となります。

タンパク質のモジュール性と進化の関係を明らかにするには、両者を比較できるように、個々のタンパク質のモジュール性を定量化しなければなりません。モジュール密度は、モジュール性を定量化する1つの指標となります。

モジュール密度は、そのタンパク質に含まれるモジュール数を、構成するアミノ酸の総数で割った値です。非常に簡単に計算することができます。モジュール密度が高いことは、進化においてモジュールが互いに独立して進化することを意味します。

このモジュール密度を計算するためには、タンパク質のモジュール数を知る必要があります。タンパク質のモジュール数を知るためには、大きく以下2つの手法が存在します。

  • 推定的基準
  • 共進化的基準

推定的基準に基づくモジュールの同定とは、フォールディングや熱力学、機能的な側面からモジュールの独立性を評価する手法です。安定な二次構造が形成されず、無秩序な領域の多いタンパク質に適応するのは難しいのですが、計算のために大規模なデータセットが不要であることが特徴です。

一方、共進化的基準に基づくモジュールの同定とは、複数のタンパク質のデータセットから、保存された領域をモジュールと判定する手法です。ホモロジーの高い複数のタンパク質が同定されている状況においては、精度高く予測することが可能です。

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