論文タイトル
Computationally designed stem-epitope mimetics elicit broadly reactive antibodies
出典
要旨
インフルエンザワクチンのタンパク質デザインを報告した論文です。
解説など
スイスバイオインフォマティクス研究所の Correia ラボからの研究報告です。インフルエンザワクチンにより誘導される中和抗体のうち、多様なウイルス株を認識する broad neutralizing antibodies (bnAbs) は主にヘマグルチニンタンパク質(HA)のステムドメインをエピトープとして認識することが知られています。筆者らは、このエピトープ構造を保存したワクチンタンパク質を計算機で設計しました。
bnAbs が認識するエピトープは、以下の3つの構造モチーフで構成されます。
- 20-residue long α-helix
- VDGW-loop
- HSV-loop
理想的には免疫原性の低いヒトタンパク質のスキャフォールドに、これら3つの構造モチーフをグラフティングできると良いのですが、そのようなスキャフォールドを検索することは困難なため、ヘリックス と VDGW-loop の2つをグラフトするアプローチ(FI6-focused design)と、ヘリックスモチーフだけグラフとするアプローチ(Stem-epitope mimetic)を採用しています。
FI6-focused design では適合するスキャフォールドを、構造的な相補性と FI6 という bnAb に対する予測結合エネルギーを指標に選抜しています。
一方、Stem-epitope mimetic では制約が緩和されているので、前者に比べて候補にできるスキャフォールドが多く、追加で原子レベルでのクラッシュや側鎖相互作用の数を基準として選抜しています。グラフティング後の配列は bnAb に対する結合活性や凝集性など様々な指標で最適化をしており、コンビナトリアルライブラリや SSM ライブラリを使って、多様な領域を改変しています。このあたりはプロセスに試行錯誤が見られ、最終産物を得るための苦労を感じます。
各々のアプローチから得られたデザインはアプローチごとに誘導する抗体のジャームラインも異なるとのことで、最適化の方向性に応じて抗体誘導特性が異なる分子をデザインできることが示されています。