【抗体デザイン】抗体の特許戦略における CDR scanning の重要性について

論文タイトル

Redefining antibody patent protection using paratope mapping and CDR-scanning

出典

Redefining antibody patent protection using paratope mapping and CDR-scanning - Nature Biotechnology
Patent protection for therapeutic monoclonal antibodies requires a fundamental shift in strategy following Amgen v. Sanofi, which invalidated broad functional c...

要旨

抗体の特許権保護戦略において、CDR-scanning が有効であることを説いた解説文です。

解説など

米国特許法には、特許における重要な要件として

  • Enablement (実施可能要件)
  • Written Description (記載要件)

があります。Enablement とは、明細書において当業者が「過度の」実験を行うことなく発明を実施できるようにするための要件です。一方で Written Description とは、その発明が明細書内に「十分に」記載されており、発明者がその発明を実際に所有していることを示すための要件です。

科学研究において、この「過度」や「十分」に対する認識は技術の進歩によって大きく変わり得ます。抗体でも過去にはその機能のみをクレームした特許が存在しました。つまりどんな抗原に結合しているか、もしくはそのエピトープとなるアミノ酸配列をクレームすれば、その機能をもつどんな抗体の権利行使ができる可能性があったということです。

しかしこのようなエピトープクレームは、現在、特に US において認められづらい状況になっています。事例として有名なのは、抗 PCSK9 抗体における、Amgen vs Sanofi の訴訟です。Amgen は 26 種の抗 PCSK9 抗体のエピトープクレームを特許申請していました。しかしこれが実施可能要件を満たしていないと米国最高裁判所に判断されたのです。

このような背景から、エピトープではなく抗体のパラトープを特徴付けした物質特許も存在しますが、これに対して記載要件を満たしていないとの判断を下す事例が増えてきています。抗体の配列を定義するクレームにおいては、評価指標として “sequence identity” が用いられることがあります。しかしヨーロッパでは、少数の改変が大きく抗体の活性に影響を与える可能性を考慮して、sequence identity を用いたクレームが認められづらい傾向にあります。

上記のような状況下で、抗体の権利化に有効な手法は、CDR scanning によるパラトープマッピングであると本文では主張しています。つまり、すべての CDR に対してすべてのアミノ酸 (19種)への変異体を作って評価することです。現代はラボオートメーション技術や遺伝子合成技術が成熟しており、1,000 検体程度の評価は現実的であると考えられるため、ランダム性のある抗体スクリーニング(免疫)やエンジニアリング(error-prone PCR など)とは異なり、その実施可能要件や記載要件を満たすことができます。

CDR scanning は、そのままエンジニアリングにおいても重要なデータであり、医薬品としての価値を高めるという意味においても活用できるため、重要視されるプラットフォームとなると考えられます。