【抗体デザイン】pH 依存的に FcRn に結合するモノマー型 Fc のデザイン

論文タイトル

Computational design of monomeric Fc variants with distinct pH-responsive FcRn-binding profiles

出典

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要旨

モノマー型 Fc(mFc)を用いた新しい抗体・融合タンパク質設計のための構造工学研究です。

解説など

抗体の Fc 領域(CH2-CH3)は、FcRn(新生児Fc受容体)と pH 依存的に結合することで、抗体の体内半減期を延ばす役割を担います。

通常の抗体(IgG1やIgG4)はホモ二量体(dimer)ですが、モノマー型 Fc(mFc)は優れた組織浸透性や毒性低減、製造簡易性を持つ有望なプラットフォームです。ただし、mFc は二量体によるの結合アビディティを失うため、FcRn との結合親和性(pH 6.0)を強化する必要があります。

本研究では、計算設計(AlphaFold2、ProteinMPNN、RFdiffusion)を駆使して、新規 mFc 変異体を創出し、その pH 応答性と安定性を検証しました。論文内では多目的に様々な設計を検討しています。その詳細は、記事後半をご覧ください。計算を駆使しているのは後述の中で、

1. Fcドメインのモノマー化

2. FcRnとのpH依存的結合の強化

の2目的のデザインだけです。

いずれのデザインにおいても大規模にモデルを生成してディスプレイスクリーニングをするわけでなく、10個に満たないデザインを検証している様子です。

 デザイン対象使用モデルモデルの役割
1α2ヘリックス挿入Inpainting + ProteinMPNN + AF2モノマー化のための幾何的衝突導入と安定化
2284–287ループ拡張RFdiffusion + ProteinMPNN + AF2FcRnとの疎水性・pH応答性結合の強化

2.のデザインにおいては、FcRn との相互作用強化を目的に Fc に新しい相互作用ループを生成することを意図した設計で、FcRn の β2M の Ile1, Gln2 との相互作用を「ホットスポット」として指定して主鎖構造を生成しています。

デザイン詳細

1. Fcドメインのモノマー化

  • FcのCH3-CH3インターフェースに位置するSer354をArgに変異させ、α2ヘリックスの再設計(RPEELETQE)を行うことで幾何学的衝突を意図的に導入し、安定なモノマー型Fc(IgG1_mFc2)を創出。
  • 結晶構造解析により、モノマー状態が維持されることを確認。

2. FcRnとのpH依存的結合の強化

  • His310-FcとGlu115-FcRnの相互作用強化を狙って、近傍のループ(284–286番残基)を延長し、疎水性を増加。
  • RFdiffusion + ProteinMPNNにより最適構造(例:IgG1_mFc3)を設計。
  • pH 6.0でのKD:88 nM(mFc2の1,454 nMより大幅改善)
  • pH 7.4では:39,150 nM(弱結合)→ 強いpH依存性(445倍)

3. His435周辺の追加変異による親和性調整

  • M428L、N434H変異により、さらに親和性向上(IgG1_mFc5: pH6.0で7.5 nM)。
  • 一方、pH7.4でも親和性がやや向上(1,056 nM)→ FcRnからの解離が遅れる可能性あり。

4. IgG4への応用とdimer Fcへの展開

  • IgG4 Fcに同じ変異を導入して、IgG4_mFc3を作成 → IgG1_mFc3と同様のpH依存性。
  • 二量体Fc(IgG1_dFc3)に変異導入 → 低pH親和性は向上するも、モノマーほどのpH選択性は得られず。