論文タイトル
Protein design, a minimalist approach
出典
Science. 1989 Feb 3;243(4891):622-8

確認したいこと
先日、タンパク質のデノボデザインの関する手法の一つとして、Minimal protein designというカテゴリについて紹介しました。
デノボデザイン技術開発の歴史を振り返るため、Minimal protein designについて詳述された論文を確認してみたいと思います。
要旨
αヘリックスデザインを中心に、Minimal protein designの手法や技術開発の歴史を解説したレビュー論文です。
章立て
- 緒言
- αヘリックスタンパク質デザインの原理
- αヘリカルコイルドコイルのデザイン:トロポミオシンモデルからイオンチャンネルまで
- 水溶性の4ヘリカルタンパク質のデザイン
- 考察
解説など
10%にも満たない配列相同性のタンパク質が、同じような構造を示すという事実は、タンパク質の構造決定要素に何らかの規則性があるということです。そのような規則性を明らかにし、デザインに応用した手法をMinimal protein designと呼びます。本論文では、αヘリックスのデザイン事例を中心にMinimal protein designの考え方を紹介しています。
筆者らはαヘリックスに関係する相互作用を、その影響範囲から以下の3つに分類しています。
- 短距離(short-range)
- 中距離(medium-range)
- 長距離(long-range)
短距離で働く相互作用とは、主に特定のアミノ酸残基の中で生じる相互作用を意味しています。例えば、αヘリックスでは、Glu、Ala、Metはその構造の安定化に寄与し、GlyやProは不安定化させることが知られています。このように短距離間における影響は配列非依存的な考察に基づきます。また10-20残基程度のペプチドでは水溶液中でαヘリックスを形成することが難しいです。この程度の長さのペプチドでαヘリックスを形成するには、中距離以上の相互作用の寄与をデザインに組み込む必要があります。
中距離で働く相互作用では、特定の2次構造の中に存在する、近接したアミノ酸残基間の相互作用を考慮します。側鎖間の静電相互作用、水素結合、芳香族間相互作用などが当てはまります。具体的な例として、ヘリックス末端に存在する電荷をもつアミノ酸残基は、ヘリックス自体が帯びる双極子と相互作用して、その構造を安定化することが知られています。
最後の長距離で働く相互作用とは、配列的には遠い位置にあるものの、空間的に近い位置に存在する残基間の相互作用です。例えばαヘリックスでは3,4残基程度の疎水性残基が繰り返し出現する傾向にあります。それに対しβシートでは、2個の疎水性残基が出現します。このような知見は、電荷性のアミノ酸であるLysと、疎水性残基のLeuを代表的なアミノ酸として選抜して、この2種類のアミノ酸のみを使用して構築したペプチドモデルによる試験で明らかとなっています。
次の記事では、本論文の続きとなりますヘリックス間の相互作用について解説していきたいと思います。
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