【抗体デザイン】OPIGからインシリコでの抗体最適化パイプラインが公開

論文タイトル

Computational design of developable therapeutic antibodies: efficient traversal of binder landscapes and rescue of escape mutations

出典

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要旨

抗体のスクリーニングと最適化を計算科学で実現するパイプラインを紹介した論文です。

解説など

米OPIG と AI 創薬バイオ企業の Exscientia からのレポートです。筆者らは本論文で抗体のスクリーニングと最適化を計算科学で実現するパイプラインを公開しました。この論文では、特定のタスクに対して最新の技術を活用した SOTA 手法を新たに開発するのではなく、ウェットでの評価まで含めたデザイン・評価パイプラインの構築と、モデル標的に対して適用したときの成績を示すことに焦点を当てています。

コードはこちら。

GitHub - Exscientia/ab-characterisation
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下記では実験の詳細について記述します。

お題としては、SARS-CoV-2 に対する抗体取得とその最適化です。具体的には、標的に結合する鋳型配列が存在するときに、

  • 配列の多様性を高めたライブラリを作成する
  • 交差性の低い変異株への結合活性を高める
  • developability を改善する

という3つの課題に取り組んでいます。

検証に使用された鋳型抗体は、以下の6種です。

  • Wuhan株に結合するがXBB.1/XBB.1.5株には交差しない
    • BD55-5840
    • DXP-604
    • LY-CoV1404
    • REGN10987
    • S2K146
  • Wuhan株とXBB.1/XBB.1.5株に結合するが、熱安定性が悪い
    • S309

① 配列の多様性を高めたライブラリを作成する

筆者らは鋳型配列を参照して、OAS のデータベースと inverse folding model による新規配列の生成から 11,389 のライブラリーを作成しました。

OAS で対象とする配列は以下の基準で選抜しています。

  • paired data: 鋳型と V/J がマッチしていて、H3 の長さの違いが1以下
  • unpaired data: 鋳型と V/J がマッチしていて、H3 の長さが一致、sequence identity が50%以上(軽鎖は鋳型を使用)

また inverse folding model には AbMPNN を活用しています。配列を再設計するポジションはパラトープから 4Å 以内の残基を対象に絞り、temparature = 0.2 で生成しています。

次に、得られた配列群は以下の手順でフィルタリングしました。

  • ANARCIでナンバリング
  • 不安定化モチーフをフィルタリング
  • ABodyBuilder2 でモデリング
  • TAP (Therapeutic Antibody Profiler) を指標に良スコアの配列を選抜
  • Rosettaで interface energy を計算 5kcal/mol以上は除外
  • ChimeraX で複合体モデルを作成、OpenMMで構造緩和
  • Rosetta で良配列を選抜(shape complementarity が 0.45以下, interaction energy は 0 未満)

上記のインシリコでのスクリーニングにより、148検体(67: OAS, 81: AbMPNN)を実験で評価、OAS 由来の配列 で XBB.1/XBB.1.5 に結合するものはなし、Wuhan 株に対しては14個が強結合、4個が中結合とのことです。鋳型配列からの編集距離は 11-75 で多様な配列を生成できていることが示されています。

② 交差性の低い変異株への結合活性を高める

5つの鋳型配列に対して各5000配列ずつ AbMPNN で配列生成。①と同様のインシリコ評価基準で、各鋳型配列に対して 13種(計 65 種)のデザインを選抜。うち 31は Wuhan 株への結合を保持、さらに9つのデザインは XBB.1.5 に交差したとのことです。

③ developability を改善する

こちらでは6つの鋳型配列に対して各2000 配列ずつ ESM で配列生成。各鋳型に対して12デザイン(計72)をウェットで評価。57/72は、Wuhan に対して結合が維持。鋳型配列からの編集距離の中央値は8。すべてについてSECで凝集体の割合が改善、10/12で Tm も改善しました。