論文タイトル
Design of facilitated dissociation enables control over cytokine signaling duration
出典

要旨
環境に応答して induced fit 型で活性を示すタンパク質をデノボデザインした事例の紹介です。
解説など
Baker 研からの新しいレポートです。彼らはアロステリックな “effector” 結合に応答して、コンディショナルに “host” のタンパク質の “partner” タンパク質への結合活性が変わる分子を創成しました。
これまでにも彼らは、タンパク質の結合活性が環境に依存して変わるスイッチタンパク質のデザインを報告したことがあります。
以前の論文では、”conformational selection” でリガンド結合性を変化させる分子をデザインしていましたが、本論文では、”induced fit” 型でスイッチする分子の設計を試みています。誘導因子の結合に応じて初めてタンパク質の構造が変化する “induced fit” 型の方が、リガンド非依存的な活性を抑制できるので、厳密な制御には有利であると考えられます。
この論文では、host (A), partner (B), effector (C) という3つの分子が登場します。effector の分子が host に結合することで partner 分子の host への結合活性が失われる、というのを狙ったメカニズムです。もともと結合活性を持っていた host-partner 間の相互作用を、effector の結合によって失わせることを試みています。 host の構成タンパク質ドメインのうち、partner との結合モジュールを binder、effector との結合モジュールを switch と呼んでいます。つまり host は binder と effector から成るマルチドメインのタンパク質です。この構成要素を正しく理解できると、論文が読みやすくなります。
本分子の設計が可能であることのコンセプト証明として、
- partner: LHD101A
- binder: LH101B
- switch: cs221
という過去に彼らのラボでデザインされたデノボタンパク質を活用しています。
host は、binder (LH101B) と switch (cs221) の融合タンパク質になります。以下の条件を満たすように融合タンパク質を PyMOL で可視化しながら手動で switch タンパク質の位置を調節しています。
- partnerとhost (state X: without effector)で立体障害が存在しない
- partnerとhost (state Y: effector)で立体障害が存在
- switch C-ter とバインダー N-ter が同じ方向を向いている
switch と binder の融合は RosettaFold inpainting または RFDiffusion で実施、ProteinMPNN で配列設計、AF2 (initial guess) で有望なデザインを選抜という流れです。
また筆者らは、IL2 のデノボミミック (Neo-2) に対しても同様のデザインを適用しています。effector 存在下で conditional に Neo-2 のリガンド活性を抑制することに成功しています。
データは素晴らしいですが、手動で設計している要素が大きく、どのようなタンパク質に対しても、同種のアプローチをとれるワークフローはいまだ確立されていない印象です。