論文タイトル
Computational design of pH-sensitive binders
出典
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要旨
pHに応答して結合力が変化するタンパク質バインダーを、計算設計によって創出する方法を初めて体系化した研究です。
解説など
これまでにもpH依存的な応答性を示す分子の計算機設計例はありましたが、部分的な試みにとどまっていました。例えば、pH依存的なホモオリゴマー化(非対称な複合体デザインではない)や、MD・QM/MMを用いたpKaの予測(設計ではない)などです。
本研究では 物理化学的原理と深層学習ベース設計(RFdiffusion+ProteinMPNN)を融合し、pH依存性をプログラム可能にしています。
設計の戦略は以下の2つです。
① 界面型(interface destabilization)
ヒスチジン(His)のプロトン化による静電反発を利用して、低pHでターゲットとの結合を弱めます。
- 高pH(中性域)ではHisは非プロトン化→水素結合を形成し結合安定
- 低pH(酸性域)ではHisが正電化→近傍の正電荷(Lys/Arg/His)と反発し結合が崩壊
- RFdiffusionでバインダー骨格を生成し、ProteinMPNNでヒスチジン偏重設計(histidine bias)を実施
- Rosettaで中性・酸性条件の電気的結合エネルギー差(ΔΔG_elec)を評価
- Yeast displayで12,000デザインをスクリーニング → EphA2, TNFR2 に対して pH 5.4で100〜1000倍結合低下するバインダーを取得
特徴的な結果:
- EphA2_pH_1 バインダーでは His15/19/22 がArg近傍にあり(3.7–7.6 Å)、強いpH応答性を示した
- 成功設計群は「His–正電荷(Arg/Lys/His)」接触を2個以上持つ傾向
② モノマー型(monomer destabilization)
バインダー内部(コア)に埋もれたHis–正電荷ネットワークを導入し、酸性pHで構造を不安定化させる方法です。
- Hisがプロトン化 → Lys/Arg/Hisとの電気的反発で局所構造が不安定化
- PyRosettaでHis–His/His–Arg/His–Lys H結合ネットワークを探索
- ProteinMPNNで周辺を再設計し、AlphaFold2で構造安定性(pLDDT, pae_interaction, RMSD)を評価
結果:
- TNFα, IL-6, PCSK9, Neo2 などの標的に応用
- pH 5.4で結合が 3〜80倍 弱化する設計を得た
- IL-6バインダーでは His–Lys–Asn ネットワークが鍵となり、変異でpH依存性が消失
どちらのアプローチも、通常の方法でバインダーを設計した後、対象の領域へのヒスチジン導入を試みる流れです。配列設計後のフィルタリングは主に Rosetta pH module を利用し、水素結合パターンや His-正電荷間距離、ΔΔG_elec を用いています。
界面型の設計は、抗体CDRデザインにも応用可能な反面、エピトープに正電荷が存在する必要があります。一方でモノマー型は、バインダーコアが大きいデザインである必要がありますが、汎用性が高く高親和性を維持しやすいアプローチです。


