TreeGazer:進化の樹を活用して、より情報量の多いタンパク質配列選択を実現する新しい枠組み

論文タイトル

TreeGazer: Prospecting Protein Sequence-Function Landscapes via Phylogenetic Structure

出典

https://www.biorxiv.org/content/10.64898/2026.05.14.725301v1

要旨

系統樹(進化の樹)の構造を明示的に取り入れたベイズ最適化フレームワーク「TreeGazer」を提案しています。

解説など

タンパク質工学では、膨大な配列空間の中から「どの配列を実験的に評価するか」を選ぶことが重要です。しかし、実験できる配列数は限られているため、できるだけ多くの情報が得られる配列を効率よく選択する必要があります。

これまでにもベイズ最適化やタンパク質言語モデル(PLM)の埋め込み表現を利用した手法が提案されていましたが、埋め込み空間は高次元で解釈が難しく、なぜ特定の配列が選ばれたのかを理解しにくいという課題がありました。

そこで著者らは、タンパク質ファミリーの進化関係を表現する系統樹(phylogenetic tree)そのものを情報源として利用する、新しいフレームワーク「TreeGazer」を開発しました。

TreeGazerとは

TreeGazerでは、以下のプロセスを経て、次に実験すべき有望な配列が提案されます。

  • 標的タンパク質について、オルソログ(異なる生物種に存在するものの、共通祖先の同じ遺伝子から進化してきたタンパク質配列)を収集する
  • 得られたオルソログ配列群から系統樹を構築する
  • 系統樹上の一部の配列について実験データを取得する
  • TreeGazerを適用し、系統樹上の未評価配列の機能と不確実性を推定する
  • その結果に基づいて、配列-機能関係の理解に最も有益と考えられる配列を次の実験候補として提案する

系統樹とベイズネットワークを統合

TreeGazerでは、根付き二分岐系統樹の構造をそのままベイズネットワーク(Bayesian Network; BN)として表現します。

モデル内部には、各ノードに対応する離散的な潜在状態(latent state)が存在します。著者らはこれを「進化モード(evolutionary mode)」と呼んでいます。

各進化モードには、対象となる性質(酵素活性や選択性など)に対応するガウス分布が割り当てられます。

つまり、

  • 系統樹の枝の長さから潜在状態の遷移確率を推定する
  • 潜在状態から性質の確率分布を推定する
  • その分布から予測値と不確実性を計算する

という流れで、未知配列の機能を推定します。

ベイズ最適化による配列選択

TreeGazerは、予測平均値(μ)と予測の不確実性(σ)を利用したUpper Confidence Bound(UCB)を用いて次に測定すべき配列を選択します。

この仕組みによって、

  • 高い性能が期待される配列を選ぶ「活用(exploitation)」
  • 情報が少なく不確実性が高い領域を探索する「探索(exploration)」

のバランスを取ります。

必要な入力

TreeGazerが必要とするのは、

  • 系統樹
  • 少数の実験データ(少なくとも1つ以上のアノテーション)

のみです。

評価

論文では、ADK(175配列)、Lanmodulin(616配列)、KARIファミリー(716の現生配列と複数の祖先配列)を用いて評価が行われました。

この論文では、TreeGazerを以下の3つの既存手法と比較しています。

  1. 系統樹ベースの貪欲法(Greedy)
  2. タンパク質言語モデル(PLM)埋め込みベースの貪欲法
  3. PLM埋め込み+ガウス過程(Gaussian Process)によるベイズ最適化

結果の概要は以下のとおりです

  • TreeGazerは学習データ数が増加するにつれて、他の手法よりも真の性質分布に近いデータセットを構築できた
  • TreeGazerでは長い枝によって遠隔クレードの不確実性が高く見積もられるため、他手法よりも局所解から脱出しやすかった