論文タイトル
Computational design of structured loops for new protein functions
出典
Biol Chem. 2019 Feb 25;400(3):275-288.

確認したいこと
- 抗体を中心としたタンパク質ループ構造の予測手法
要旨
タンパク質ループ構造の予測と設計手法について解説されたレビューです。
章立て
- 緒言:タンパク質ループのコンピュータ設計に焦点を当てる理由
- 自然界の機能性ループ
- ループデザインとは
- ループデザイン:最新技術
- ループモデリングから何を学ぶことができるか
- 表現方法
- サンプリング
- 閉鎖
- スコアリング
- ループデザインにはどのような検討が必要か
- ループデザインに特有の問題は何か
- 結言
解説など
本レビューでは、ループモデリングとループデザインの、両方の手法の特徴や課題を解説しています。
ループモデリングとは、アミノ酸配列からタンパク質の3次元構造を予測する手法です。一方で、ループデザインとは目的の3次構造を取り得るアミノ酸配列を予測する手法となります。標的抗原に結合する抗体CDRのデザインや、酵素活性中心のループデザインなどの例が挙げられます。従ってモデリングとデザインは、逆の手順を追うことになります。
本論文では、ループモデリングのアルゴリズムを以下の4ステップの順に解説しています。
- 分子表現
- サンプリング
- 閉鎖条件
- スコアリング
分子表現は、構造をモデリングする上で分子の座標を記述する方法です。これには全原子を記述する方法と、粗く表現する方法の2つが存在します。
全原子を表示する場合は、その名のとおり、溶媒原子を除く、タンパク質の骨格と側鎖の原子をすべて含みます。粗く表現する場合は、タンパク質の側鎖を単一の大きな球体に置き換えたり、完全に取り除いたりします。手法によっては、異なる側鎖ごとに、異なるサイズと電荷特性を付与することもあります。
多くのモデリング法は、粗粒表示で妥当なループ立体配座の探索をした後、全原子表示に切り替えて最適化する方法をとります。
続いてはサンプリング方法です。こちらに関しては、本ブログでもたびたび解説してきました。
主にテンプレートベース、またはテンプレートフリー/de novoモデルが採用され、サンプリングにおいてもこの両者をハイブリッドすることが一般的です。
テンプレートフリーの手法においては、さらに具体的に以下のようなアルゴリズムが採用されています。
- ループ周辺の「クラウド」に原子を配置し、それらを改良することで、各種制約条件を充足させる
- 物理的に妥当な主鎖立体構造から、モンテカルロまたは分子動力学シミュレーションを実行
- 出現頻度の高いタンパク質構造をもとに、主鎖のΦ/Ψのねじれ角をサンプリング
- 既知の構造から、さらに大きなループ断片へと拡張する
テンプレートベースのアプローチは、後述のとおり、ループデザインにおいては非常に有効な方法です。テンプレートをさらに断片化したフラグメントを組み立てる方法をとることで、より柔軟に構造を予測・設計することができます。
構造予測における一つの課題として、最適化の過程で、エネルギー障壁を超えず、局所解に補足されることが挙げられます。これを防ぐための基本的な戦略に、シミュレーテッドアニーリングや、並列温度化、遺伝的なアルゴリズムの利用が挙げられます。
続いては閉鎖条件です。タンパク質骨格に鎖切断を生じさせることなくループをつなぐ必要があります。このため、最も単純な手法においては、ループの両端から構造を構築し、中間点において制約を満たすように調整する方法があります。この他、循環座標降下法(cyclic coordinate descent, CCD)や、運動学的閉鎖法(kinematic closure, KIC)などが一般的に用いられます。
最後は、スコアリングです。最も現実的な立体構造を評価する手法となります。スコアリング法には大きく、物理的な指標によるスコアリングと、統計的な指標によるスコアリングが存在します。
前者のスコアリング法には、具体的に以下の手法が存在します。
- AMBER
- CHARMM
- OPLS
後者の手法には、以下が挙げられます。
- DFIRE
- DOPE
- SOAP-Loop
- GOAP
スコアリングについても、物理学的、統計学的なスコアリング関数の両者をハイブリッドして使用されます。
ループモデリングは、サンプリングステップにおいて立体構造のみをサンプリングすればよいのですが、デザインにおいては、立体構造と配列を同時にサンプリングする必要があります。これは「設計可能性」問題と呼ばれます。つまり、望ましい立体構造があったとしても、それを実現する配列を提供できなければなりません。この点から、ループデザインにおいては、テンプレートベースのアプローチが優位となります。配列そのものを提示できる可能性が増すためです。
この他にもループデザインにおいて考慮しなければならない点がいくつかあります。まず、大きな側鎖ほど相互作用分子に対する接触面積が大きいため、優位に選択される可能性があります。これはループの長さにおいても同じで、長い方が短いループよりもスコアの値が高くなります。従ってこれに対する制約条件が必要となります。
また、ループの柔軟性を予測することも重要です。柔軟性を予測するためには、主に2つのアプローチが存在します。1つ目は、Boltzmann平均量を計算する方法、2つ目は、タンパク質をグラフとして表しそのグラフの接続性から推測する方法です。
本レビューでは、抗体のCDRループ予測についても言及されています。抗体はマチュレーションされるにつれて、抗原との相補性が増し、抗原結合時のエントロピー消失を抑えるために、抗原がなくても結合構造に似た構造をとることが知られています。
医工学分野において広く活用される抗体のCDRループ予測はとても有用ですが、以下の点がハードルとなります。
- 6つのCDRがあり、またそれらが互いに相互作用して大きな結合界面を形成すること
- 特にH3ループが長くなり得ること
実際にループデザインを行った実施例としては、下記の研究が挙げられます。
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