【ドッキング】抗体・抗原相互作用における各ドッキングシミュレーション手法の精度を徹底比較

論文タイトル

An expanded benchmark for antibody-antigen docking and affinity prediction reveals insights into antibody recognition determinants

出典

Structure. 2021 Jun 3;29(6):606-621.e5.

An expanded benchmark for antibody-antigen docking and affinity prediction reveals insights into antibody recognition determinants - PubMed
Accurate predictive modeling of antibody-antigen complex structures and structure-based antibody design remain major challenges in computational biology, with i...

確認したいこと

  • 抗体・抗原複合体のドッキングシミュレーションにおける各ドッキングアルゴリズム精度比較

要旨

ドッキングシミュレーションの精度検証のためのベンチマークデータセットの作成と、それを用いた各ドッキングアルゴリズムの精度比較検証結果を紹介した論文です。

解説など

これまでに、タンパク質複合体について、様々な種類のドッキングシミュレーション手法が開発されています。これら各手法の予測精度を比較評価するには、充実した複合体構造データの活用が欠かせません。

これまでにDocking Benchmark 5.0(BM5)を例として、複数のベンチマークデータセットが用意されています。

本論文では、抗体・抗原複合体に特化して、最新のものを含めた新規ベンチマークデータの構築に取り組んでいます。また筆者らは、このデータセットを利用して、ZDOCK、ClusPro、RosettaSnugDockの3種のドッキング手法の予測精度を比較評価しています。

まずベンチマークデータの中身についてですが、筆者らはPDBのデータを網羅的に探索し、BM5に存在しない41種の抗体・抗原複合体を含めた、計67例のデータセットを構築しました。この中には、nanobodyなどの単ドメイン抗体も含みます。

また、各データに対して、ドッキング予測難度を、”Acceptable”・”Medium”・”High”に分類したたところ、新規データセットでは、”Medium”またば’High”に分類されたデータが、BM5に比べてさらに充実したとのことです。

ドッキング手法の比較については、ZDOCKとClusProの2つに対して、グローバルドッキング(初期構造をランダムに探索する手法)の精度が検証されました。大要としては、どちらのアルゴリズムも同等の性能を示し、上位10の構造モデルで30%前後の成功率を示していました。モデル数を増やすほど予測成功率は上昇し、2000モデルまで許容すると、”Medium”のターゲットでは66%、”Acceptable”のターゲットでは、90%を示します。

次にSnugDockを用いたローカルドッキング結果です。こちらでは当然グローバルドッキングよりも精度が高く、上位1モデルの成功率が40%程度、上位10モデルで80%程度の値を示します。

本論文では、非結合状態における構造と、結合時の構造の違いが、ドッキングの精度に与える影響を深く考察しています。

ドッキング予測難度の比較的高い”Medium”と”High”の構造は、そのCDRに顕著な構造の違いが観察できます。また、この構造変化はCDR3ループで高頻度におこっているとのことです。

その他、個人的におもしろいと思った結果を下記に記します。

  • 抗体側の構造変化が大きいときは、抗原側の構造変化は小さい傾向にある
  • グリシンとプロリンは大きな構造変化を示し、チロシンやトリプトファンは比較的構造変化量が小さい

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