論文タイトル
Antibody-Antigen Docking and Design via Hierarchical Equivariant Refinement
出典
確認したいこと
深層学習を利用した、タンパク質構造予測・デザイン手法をベンチマークしています。
要旨
抗原・抗体複合体のドッキング予測とデザインのため、Hierarchical Equivariant Refinement Network (HERN) を提案した論文です。
解説など
筆者らは、以下の3点を既存のドッキングシミュレーションの課題ととらえて、その解決策を提案しています。
- パラトープの柔軟性(⇔剛体ドッキングモデル)
- 同変性(エピトープ構造に対して本来あるべき回転不変性を考慮 ⇔ 絶対座標の予測)
- 計算効率(非深層学習手法で、全原子構造を構築するのは非現実的)
この目的で筆者らが活用しているのが、Equivariant Neural Network(ENN)です。ENNの概要の説明は以下のサイトがわかりやすいと思います。
このENNを使って、原子間力を予測し、逐次的、かつ同変性を考慮しながら複合体構造を精緻化していく手法がHERNです。HERNでは抗原のエピトープ3次元構造を与えるだけで、それと結合を示す抗体のH3がデザインできます。
従来の手法に対するHERNの特徴は、以下のとおりです。
タンパク質ドッキングシミュレーションの観点
- 剛体ドッキングによる複合体構造予測ではない
- AF2-multimerのようなMSAは不要(MSAは抗体デザインには適さない)
生成モデルの観点
- Jin et al. 2021【解説リンク】:GNNベースの生成モデル。バインダーデザインはできない。
- Ingraham et al. 2018【解説リンク]: 骨格構造のみをモデルするため側鎖構造は考慮しない。バインダーデザインはできない。
- Adolf-Bryfogle et al. 2018【解説リンク、Cao et al. 2021〖解説リンク】:非深層学習手法。計算コストが高い。
タンパク質構造のエンコーダ手法の観点
- Eismann et al. 2021のENN:事前に複数のドッキング構造が与えられた状況下でのランキング手法。自ら複合体構造を生成するわけではない。
- Somnath et al. 2021のGNN:側鎖の予測はできない。
HERNの訓練データには、SAbDabに含まれる2,777個の複合体構造が使用されています。構築したモデルを用いて、ドッキングシミュレーションや、バインダーデザイン適応した事例が紹介されていました。
ドッキングシミュレーション
- 比較モデル:IgFoldで生成した抗体構造に対するHDOCK
- 評価指標:DockQスコア
バインダーデザイン
- 比較手法:RosettaAntibodyDesign、RefineGNN(Jin et al. 2021)
- 評価指標:アミノ酸の回収率(ARR)
いずれのアプリケーションにおいても、従来法に比べて優れた成績を示しています。全長の抗体配列が生成できれば、さらに利用が現実的になると感じます。近年タンパク質デザインへの実施例が増えているGeometric Deep Learningとシナジーが強い手法であり、今後の発展が期待されます。
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