論文タイトル
Designing artificial enzymes by intuition and computation
出典
Nat Chem. 2010 Jan;2(1):15-24.

確認したいこと
先日、タンパク質のデノボデザインの関する手法の一つとして、Rational protein designというカテゴリについて紹介しました。
本記事では、Rational proteing designの項で引用されていた、代表的な論文を紹介したいと思います。
要旨
酵素を、”Rational”または”Computational”にデザインするための手法を紹介した論文です。
章立て
- (緒言)
- ヘリックスと酵素
- 三次構造をもつ酵素モデル
- 人工酸素トランスポーターのバイナリーパターンデザイン
- デノボ酵素の計算機デザイン
- 計算機による活性部位のデノボデザイン
- ROSETTAによる酵素デザイン
- 酵素活性部位の外側のデザイン
- 複数の基質
- 複数の基質反応のタイミング
- 小規模の酵素運動
- 大規模の酵素運動
- アロステリー
- 細胞内環境からのエネルギー中間体の保護
- 酵素フォルダマー
解説など
2009年に公開された論文で、それまでの歴史的な経緯が理解できるようにストーリーが展開されています。当然、深層学習を用いた手法が隆盛する以前の話です。
バインダーのデザインですら、容易に達成できる課題ではありませんので、酵素のような複雑な反応を設計することは非常にチャレンジングな課題の一つです。一方で、一部の酵素では複雑なトポロジーは必要なく、一つのアミノ酸残基が活性中心となって触媒作用を示したりもします。したがって、天然の酵素活性の原理を理解して、適切な鋳型構造から出発すれば、合理的な設計も可能であることが示唆されます。
酵素のデザインに関しても、その初期の試みは両親媒性のαヘリックスがベースになります。例えば、Helichromeと呼ばれる4つのαヘリックスに基づく加水分解酵素が設計されています。ヘリックス鎖の会合部分が酵素の活性部位として機能するのが一般的です。
過去の記事で、ヘリックスは極性残基と非極性残基の周期的な出現パターンでデザインできることを紹介しましたが、この規則はHP-7と呼ばれる酵素のデザインにも活用されています。
完全デノボの構造における酵素設計のマイルストーンはDFシリーズのタンパク質です。これはヘリックス・ループ・ヘリックスの2量体であり、2量体界面に金属結合サイトが存在しています。この結合中心はリボヌクレオチド還元酵素の結合サイトを参考にデザインされています。
このようなデザイン検討は、デザインされた分子そのものの工学的な活用だけでなく、天然分子の機構解明にも役に立っています。例えば、DFシリーズのフォールディングの様子から、活性部位の組織化機構について考察がなされています。
その後、徐々に計算による酵素のデザインも試みられていきます。デノボで活性部位を設計するうえでの課題は下記の2点です。
- 活性部位を挿入するための最適な個所をデザインタンパク質内から同定する
- 活性部位をモデリングする
これらの課題を達成するために、これまで、METAL SEARCHやDEZYMEのようなソフトウェアが開発されてきました。
もう一つの代表的なデザインツールはいわずとしれた、ROSETTAです。フラグメントアセンブルで構造を構築し、スコアリングポテンシャルに基づいて評価する手法が酵素デザインにも応用されています。例えば、逆アルドール反応を触媒する人工酵素がROSETTAによりデザインされています。
活性部位以外の領域をデザインするための手段についても言及されています。分子の運動については、小規模のダイナミクスは解明されていない点が多く、実験的な分子進化技術を用いないとデザインが難しいことが課題です。大規模な構造変化は、初期の設計で考慮に入れる必要があるとのことです。
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