論文タイトル
Sculpting conducting nanopore size and shape through de novo protein design
出典

要旨
この研究は、新規プロテインデザインを使用して、特定のサイズと形状を持つ伝導性ナノポアを創出しています。これにより、DNAやRNAの配列決定等に応用可能な、カスタマイズされたナノポアセンサーの開発が可能になります。
解説など
βバレルタンパク質の代表的な工学応用の例に、ナノポアシーケンサーがあります。
DNA鎖が膜貫通のβバレルを通過するときの電流値を測定することで、その配列を同定することができる技術です。現在のナノポアシーケンサーに用いられているポアタンパク質には、天然のタンパク質(細菌由来のCsgG)、またはそのバリアントが利用されています。
ナノポアシーケンサーの動作原理については、こちらのページが参考になります。

このようなナノポアタンパク質を用いた検出手法は、精度や感度がポアタンパク質の電気特性に依存しており(電流値の変動を検出する際にノイズが低い方がS/N比を改善できる)、いまだ改良の余地があるのとともに、将来的にDNAの配列決定以外にも応用できる可能性があります。
そこで筆者らは、既存のタンパク質デザインにはないサイズや電気特性を示すβバレルタンパク質を「デノボで」デザインすることを試みた、というのが本論文の主旨です。結論としては、サイズの異なる複数のβバレルタンパク質をデザインできたことや、それぞれのコンダクタンス特性が異なることを示したところまでで、特定の検出用途への適用事例などは論文中に記載はありません。
ここからは、デザインの手順やTipsについて概説します。彼らがバックボーンとしたタンパク質は8本鎖のβバレルです。詳細は下記の論文に報告されています。
このバックボーンをベースに彼らが改良した要点は、下記のとおりになります。
- 細孔のサイズを調整するために、βストランドの数を増加
- ノイズを軽減するために、バレルの両側のβストランドを接続
- バレル孔を望みの形(三角形など)にするため、グリシンキンクを導入
- ミスフォールディングや凝集を防ぐため、局所的な二次構造フラストレーションを導入
最終的に、組み合わせ配列設計と構造緩和を数回繰り返した後、インシリコで予測できる水素結合ネットワーク、二次構造、および凝集傾向に基づいて望みのデザインを選択しています。さらにAlphaFoldモデルに基づくpLDDTでフィルタリングしています。
得られたデザインは、きちんと膜への挿入に成功し、再現可能な強度の電流の明確なジャンプを生成して、安定したナノ細孔コンダクタンスを有していました。また、 OmpG など、センシングに使用される天然に存在するナノポアタンパク質と比較して、非常に低いコンダクタンスを示したとのことです。