論文タイトル
Reducing Immunogenicity by Design: Approaches to Minimize Immunogenicity of Monoclonal Antibodies
出典

要旨
抗体の免疫原性を低減するための戦略について、広く言及したレビュー論文です。
章立て
- 緒言
- 抗体の免疫原性に関連した臨床事象
- T細胞依存的・非依存的なADA経路
- 免疫原性に関連する抗体側の要素
- ホストセルプロテイン
- 凝集
- 等電点
- 翻訳後修飾
- T・B細胞エピトープ
- 抗体機能
- 免疫原性に関連する患者側の要素
- 遺伝型とHLA-II多型
- 標的タンパク質の分子数
- 医療条件
- 併用療法
- 免疫原性低減のためのインシリコアプローチ
- T細胞エピトープ予測
- B細胞エピトープ予測
- 構造モデリング
- 免疫原性予測のためのインビトロアプローチ
- 免疫原性を測定するためのT細胞活性化・増殖評価
- APCインターナライゼーションアッセイ
- MAPPsアッセイ
- エピトープマッピング
- 免疫原性低減戦略
- 抗体開発
- エピトープシールディング
- Quality by Design
- 治療
- 課題・アンメットニーズ・展望
解説など
外来の抗体タンパク質をヒトに投与すると、体内の免疫系が抗体分子を異物判定して抗体タンパク質を除去する作用が働きます。この誘因性を免疫原性と呼びます。免疫原性の強さは、タンパク質の種類によって異なります。基本的にはヒトの天然タンパク質に類似していればしているほど、免疫的に寛容である可能性が高まりますので、免疫原性は低くなります。これは医薬品としても、その分子が不要に除去されないために、また免疫系を不要に活性化しないために重要な要素です。
本論文では、この免疫原性が起こるメカニズムや、どのような要素が免疫原性に影響を与えるのか、また免疫原性を低減するための戦略について解説しています。ここまで体系的かつ広範囲に解説された文献は非常に価値があります。
Table1にも承認済みの抗体医薬品のADA出現率が示されていますが、限りなくゼロに近いものから、50%以上を超えるものまでさまざまです。それだけ抗体の価値に大きく影響を及ぼす要素ですし、また免疫原性を低減することは難しいものであるといえます。
免疫原性の課題解決の難しさを与える要因は次のとおりと考えています。
- BCRの多様性
- 個体間における抗体・HLA型の多様性
- 抗体のオンターゲットメカニズムとして免疫系が活性化される
- 多様な分子課題(薬効・物性・製造など)解決における妥協
特に、1~3は免疫原性特有であり、その中でも1, 2はどのような疾患領域に対する医薬品においても直面する課題です。投与経路や投与量、免疫抑制剤との併用など、治療法でケアできる面もありますが、ユーザビリティにかかわるので、医薬品の価値最大化のためには、物質改善で解決したい課題です。
非臨床試験においては、ウェットの試験を活用しても正確に分子の免疫原性を評価することが困難であるため、まずはヒト外挿性の高い評価系構築が急務であると考えられます。
この分野においても、AI手法の期待が高まっています。直接的には、T細胞エピトープやB細胞エピトープを予測することで、免疫原性の高い分子デザインを回避することができることが望まれます。また、タンパク質の分解耐性も免疫反応を惹起しないためには重要なため、熱安定性などの物性改善のための分子デザインにAIが貢献する可能性もあります。