【タンパク質デザイン】ドメイン内に構造多状態をもつタンパク質を人工的に設計!

論文タイトル

Deep learning guided design of dynamic proteins

出典

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要旨

リガンド結合により構造変化を誘起するタンパク質を人工的に設計した事例の紹介です。

解説など

多状態をとるタンパク質のデザイン、さらにその状態遷移をリガンドや変異によって制御することはとても難しい課題です。これまでの数少ない実施例では、この問題に対してヒンジなどを活用してドメイン間の相対配置を変化させる手法が採用されていました。

筆者らは、ここからさらに一歩踏み込み、ドメイン内に存在する原子レベルでの構造変化を人工的に設計する方法を開発しました。天然のシグナル伝達関連タンパク質など(キナーゼや GPCR)は、このような性質を持っていることから、それを人工的に実現できるか、そしてその目的を達成するための汎用的・効率的なプロセスを開発できるかが、この論文で追及されています。

彼らが技術検証のために標的としたタンパク質は troponin C という Ca 結合タンパク質です。検証時にリガンド結合の有無で構造変化を誘起できるメリットから選択されています。

筆者らがとった具体的なデザイン手順は次のとおりです。

  1. 標的タンパク質の再安定構造 (state 1) から離れた代替構造状態 (state 2) を定義する
  2. state1 と state2 の両方を実現できる配列を設計する
  3. リガンドや変異導入で state1/2 の平衡を変えることができるデザインを探索する

①のステップにおいては、troponin C の Ca結合サイトの周辺(loop III, helix C, Ca2+ binding site II)を標的に、新しい構造の探索を試みています。この目的のために、loop-helix-loop unit combinatorial sampling algorithm (LUCS) という手法を構造サンプリングに活用しています。サンプリングされた構造は Rosetta で配列設計され、酵母ディスプレイによる提示率を指標に、設計タンパク質の安定性が評価されます。

②のステップでは、深層学習モデルを活用します。具体的には、野生型配列に対する変異体の構造を AF2 で予測することで、state 1 の構造に近くなるアロステリック変異を探索し、各ステートに関与するキーポジションの同定します。これにより探索するべき配列空間を狭めてから、”position-tied ProteinMPNN” で両ステートを満たす配列を設計します。

③のステップでは、リガンドによる構造変化をより正確に捉えるために MD シミュレーションを活用します。

一連を通じてみると、最初の state 2 構造のサンプリングやステップ3の構造平衡を制御するための MD シミュレーションとその考察においては、標的タンパク質に依存した工夫が見られますので、この点において汎用的な方法論が開発されると実用性が高まると感じました。