【抗体デザイン】抗体の “developability” を予測するための、電荷・疎水性特性解析法を紹介

論文タイトル

Molecular surface descriptors to predict antibody developability: sensitivity to parameters, structure models, and conformational sampling

出典

Just a moment...

要旨

MolDesk というタンパク質表面特性記述子で、抗体の developability を予測する手法を紹介した論文です。

解説など

タンパク質の表面特性が治療用医薬品の開発可能性 (developability) に大きく影響を与えることは広く知られています。例を挙げると既存の研究から負電荷性は高い粘性と相関があり、正電荷性は早いクリアランスや非特異結合性と相関があります。また疎水性はタンパク質の凝集性・溶解性・収量など幅広い特性に影響を与えるといわれています。このような考察からこれまでタンパク質の表面特性を特定の指標(電荷、疎水性など)に沿って数値化する試みがなされてきました。少し例を挙げると次のようなスコアリング手法が挙げられます。

Charge
  • FvCSP
  • SCM
  • PPC/PNC
  • MOE
Hydrophobicity
  • LogP-based methods:
    • AggScore
    • MOE’ patches
  • residue-based hydrophobicity scores:
    • Fv Hydrophiobicity Index(HI)
    • Spatial aggregation propensity (SAP)
    • TAP’s protein surface hydrophobicity (PSH)

これらに対して筆者らが新たに提案した抗体専用の表面特性のディスクリプタが MolDesk です。

MolDesk は構造に基づいて表面特性を特徴づけしています。まずタンパク質表面を三角メッシュで表現し、各領域の電荷ポテンシャルは APBS を使って、疎水性は各疎水性スケール (BM, WW, KD, EI) に基づいて計算します。筆者らのスコアリング手法で特徴的なのは、static な構造情報だけではなく、MD シミュレーションで一定時間の構造情報をアセンブルすることで、その構造柔軟性を考慮に入れた表面特性を計算している点です。

筆者らは MolDesk に基づくタンパク質表面特性の数値化が下記に示すタンパク質の機能性と強く相関していることを示しました。

  • Viscosity
  • PK clearance
  • Polyspecificity heparin binding
  • Aggregation
  • HIC retention time

また臨床入りした抗体と MolDesk 値との関係性を解析することで developability の優れた抗体かどうかを判定するための MolDesk 閾値を提案しています。気を付けるべきは、あくまで MolDesk値 にもとづく開発抗体の頻度分布から閾値を定めているだけなので、直接的に PK や粘性を予測するアプローチではなく、また公知の配列と大きく異なる構造の場合は、その developability を正確に予測することは難しいと考えられます。

深層学習が活用できる昨今、このようなディスクリプタをそのまま予測指標として活用する機会は少なくなると考えられますが、高次元の入力エンベディングとして重要な役割を果たすでしょう。