論文タイトル
De novo Design of A Fusion Protein Tool for GPCR Research
出典
要旨
対象の GPCR をクライオ電子顕微鏡で構造解析するための、熱安定化かつ分子量増大を目的としたタンパク質エンジニアリング手法を紹介しています。
解説など
GPCR の構造解析のためのタンパク質設計手法の紹介です。GPCR の細胞内ループにデノボスキャフォールドを挿入することで、タンパク質の熱安定性を改善し、さらにクライオ電子顕微鏡で解析するための分子量のかさましも達成しています。
類似の公知手法としては、抗体(nanobodyなど)に結合するモジュールを標的 GPCR にグラフティングしたり、T4 lysozyme を融合して熱安定性を高める方法が知られています。細胞外のエピトープを保存してそれ以外の領域を RFDiffusion でスキャフォールディングさせる手法もありますが、天然タンパク質の構造解析を目的とする場合は少し不適ですので、筆者らは前者のような細胞内ループに融合するタンパク質ドメインをデノボスキャフォールドで生成するアプローチをとっています。本研究ではまずM1R と NMBR という2つの GPCR の設計を試みています。
手法の概要は、既知の生成手法と同様で RFDiffusion による主鎖構造の生成、ProteinMPNN による配列設計、AF2 による構造予測の流れです。筆者らは標的の細胞内ループのうち TM5 と 6 の間にスキャフォールドの挿入を試みています。主鎖構造生成には参考となる点があります。無条件にスキャフォールドを生成すると、生成したドメインが TM 領域側に伸びてしまうことが課題とのことです。そこで彼らは次の手順でステップワイズにスキャフォールドを生成することを試みました。
- TM5/6 の間に 10 – 20 アミノ酸を伸長する
- 伸長領域に 20 アミノ酸程度の安定化されたヘリックスを生成する
- 100~150 アミノ酸を目安に全体の主鎖構造を生成する
生成した構造の妥当性は pLDDT を指標に評価しているとのこと。生成した構造の数は不明で、本文では1種類のデザインのみ実験検証データが公開されています。M1R、NMBR ともに Tm の高い GPCR が昆虫細胞の発現系で調製することができています。
また 5-HT2BR という別の GPCR は M1R とホモロジーが高いとのことで、M1R 用に生成したデノボスキャフォールドを 5-HT2BR に移植したところ、こちらも M1R のデザインタンパク質と同等の発現量を実現することができたそうです。しかしホモロジーの低い NMBR 用に設計したドメインでは、上手くいかなかったらしく、生成したデノボスキャフォールドの汎用性は高くないことが示されています。