論文タイトル
De novo design of epitope-specific antibodies against soluble and multipass membrane proteins with high specificity, developability, and function
出典
要旨
Fab 型の抗体バインダーをデノボでデザインした事例です。
解説など
米国のマサチューセッツ州にラボを構える AI 創薬スタートアップの Nabla bio からのレポートです。筆者らはデノボで初めて scFv/Fab スキャフォールドのバインダーデザインに成功しました。またその標的には複数回膜貫通タンパク質が含まれていることも大きな進歩です。
筆者らが開発した構造設計パイプラインは JAM (Joint Atomic Modeling) と命名されています。当然コードは公開されておらず、デザインスキームも概要しか示されていません。入力は標的抗原のアミノ酸配列または構造で、出力としてバインダーの候補配列と構造モデルを生成します。抗原結合による標的抗原の構造変化も考慮し、入力と出力の構造モデルは異なることもあるそうです。また、かなり詳細な条件付けが可能と記載されています。
パイプラインは大きく、
- generative model
- scoring model
の2つで構成されています。
JAM を活用した設計・評価を50回以上繰り返し試行錯誤することで、モデルのアーキテクチャや重み、ハイパーパラメータなどが最適化されています。本手法により6週間以内にデザインからリコンビナントタンパク質でのバインダーのキャラクタライゼーションまで可能とのことです。
実施例によって詳細な数は変動しますが、おおむね JAM によって 1,000~100,000 のデザインを生成し酵母ディスプレイでバインダーを濃縮しています。バインダーはおよそユニークな配列として数十クローン同定することができ、その抗原親和性は強いクローンで数十 nM を示しています。
実施例の中では、VHH のデザイン事例として以下の抗原に対する成績が示されています。
- SARS-CoV-2 RBD
- (Target X)
- HER2
- IL-13
- PD-1
- TrkA
- Claudin-4
- CXCR7
また SARS-CoV-2 RBD に関しては、scFv ディスプレイ/リコンビナント IgG 評価で Fab のデザインも試みています。VH と VL それぞれを 3000 配列ずつ設計し、各ライブラリを組み合わせた 900 万の配列集団を酵母ディスプレイでスクリーニングしています。
本手法は、逐次的に分子進化させることも可能です。1st ラウンドで生成した集団数千配列をそのまま次のデザインラウンド進めることを繰り返します。これによりクローンの親和性が改善するだけでなく、意外にも配列集団の多様性が増すとのことです。
生成された配列の物性もトラスツズマブと同程度以上であるクローンの割合が多い印象です。 humaness スコアが既知のヒト化抗体と比べると低いことがやや懸念点に感じました。
追試検証が可能なように設計配列が公開されることが望まれます。