論文タイトル
Computational design of serine hydrolases
出典

要旨
セリン加水分解酵素をデノボデザインした実施例を紹介した論文です。
解説など
これまでも酵素を人工的に設計する試みはいくつかありますが、上手くいっても実現できる反応は1回転のみ(次の基質をプロセシングする能力がない)でした。アプローチとしては、反応の MOA が詳細に理解されている酵素を対象にその活性中心を保存して、周囲のスキャフォールドを再設計する手法が一般的です。それら既存の手法における課題点として、
- そもそも活性中心を保存できるスキャフォールドを既存のライブラリから見つけることができない
- 多段階で進行する反応の各ステートを厳密に制御することが難しい
といったことが挙げられます。
筆者らは、1)の課題に対して構造生成モデルである RFDiffusion の活用を、2)の課題に対して低分子リガンドとタンパク質の相互作用構造を精緻に予測するためのモデルである ChemNet を活用することで課題解決を試みました。ChemNet は PDB に登録されているタンパク質・低分子複合体構造を学習した構造予測モデルです。
これらを用いた酵素のデノボデザインステップは次のとおりです。
- 活性中心と周辺残基の主鎖のN, Cα, C を出発点とする
- RFDiffusion で活性中心をスキャフォールディングする
- LigandMPNN で配列を設計する
- Rosetta FastRelax で構造をリファインメントする
- 3, 4 の繰り返しステップを何度か続ける
- AF2 で構造予測し、すべての catalytic residues の Cαが1Å 以内のデザインを選抜する
- ChemNet で各酵素反応ステップの組織化程度を評価
筆者らはこの手法を、セリン加水分解酵素に適用しました。セリン加水分解酵素は酵素の中では非常によくその反応機構が解析されていて、モデルとして適切な分子です。この加水分解反応は4つのステップで構成されています。筆者らはまず AF2 までのステップを実施し選抜されたデザイン (Round 1)と、Round 1デザインからさらに酵素のアポ構造に対して ChemNet を適用したデザイン(Round 2)をそれぞれ 129 デザイン、192 デザインずつ評価し、酵素反応を示すデザインを同定しました。それらはまだ逐次反応を示すには至らなかったため、Round 3として、反応ステートのうち2状態 (apoと AEI) の遷移構造に対して ChemNet による予測を適用して再設計・選抜し、逐次反応を示すデザインを同定しました。最終的には4ステップすべてに対して ChemNet を適用したデザインにまで進化させて活性向上を試みています。
最終的なデザインの活性は天然酵素に及ぶものではありませんが、既存のデザインより高い活性を示しています。また活性を示したデザインの活性中心の原子の RMSD は 1 Å 以下であり、ChemNet の高いフィルタリング能力が示唆されます。