【抗体エンジニアリング】抗体のdevelopabilityに関与する物性指標とは

論文タイトル

Predicting Antibody Developability Profiles Through Early Stage Discovery Screening

出典

MAbs. Jan-Dec 2020;12(1):1743053.

Predicting Antibody Developability Profiles Through Early Stage Discovery Screening - PubMed
Monoclonal antibodies play an increasingly important role for the development of new drugs across multiple therapy areas. The term 'developability' encompasses ...

確認したいこと

  • 抗体の発現量を予測する手法

要旨

メルクの非臨床における抗体スクリーニングのプラットフォームと、それを活用した各種物性評価指標の相関に関する解析結果が紹介されています。

用語

  • UP-SEC: ultra-high pressure size-exclusion chromatography
  • HP-RP: high-pH reverse phase chromatography
  • CE(-SDS) NR: Non-reduced capillary electrophoresis
  • CE(-SDS) Red: Reduced capillary electrophoresis
  • Nano-DSF: Nano-differential scanning fluorimetry
  • HIC: hydrophobic interaction chromatography
  • AC-SINS: affinity-capture self-interaction nanoparticle spectroscopy
  • clEF: capillary isoelectric focusing

解説など

抗体の医薬原薬としての開発可能性(developability)を評価して、最適なアミノ酸配列を選択する手法が、これまで様々に開発されてきました。予測の方向性のひとつとしては、Developabilityに寄与する因子を細分化し(熱安定性、粘性など)、それぞれについて実測または計算しやすい指標を活用する手段があります。前の記事で紹介したような、タンパク質の凝集性を評価するSAPスコアや、疎水性クロマトグラフィーの保持時間を予測するための機械学習モデルなどは、その例に当たります。

一方で、優れた抗体であることが既知の集団の特徴を解析することで、developabilityを予測するアプローチも広く採用されています。代表的なものは、臨床試験に進んでいる抗体医薬のデータセットの活用です。

本論文でも、多様な抗体のデータセットと実験で得られた物理化学的な性質から、各因子どうしの相関を解析することで、developabilityに重要な指標を明らかにしています。

本論文で活用された抗体のデータセットは、以下のとおりです。

  • 152種類のヒトまたはヒト化抗体
  • lgG1またはlgG4
  • κ鎖またはλ鎖
  • レパトア間で異なる抗原に対して結合性を示す
  • 異なるV遺伝子のジャームライン(κ鎖:サブグループ I、III、IV、λ鎖:サブグループ I、重鎖:サブグループ I、III)
  • BALB/cまたはトランスジェニックヒト化マウス、ヒトドナー由来のB細胞、合成ヒトライブラリーのいずれかが由来

評価した物性は、以下のとおりです。

  • 抗体の発現量 (Octet titer, mg/mL)
  • UP-SECのメイン/高分子量/低分子量ピークの割合 (%)
  • UP-SEC pH3.5におけるメイン/高分子量/低分子量ピークの割合 (%)
  • UP-SEC 保持時間 (min)
  • UP-SEC pH3.5における保持時間 (min)
  • HP-RPのメイン/pre/post ピーク割合 (%)
  • 非還元CE-SDSのメイン/低分子量/高分子量バンドの割合 (%)
  • 還元CE-SDSの重鎖/軽鎖/その他のバンドの割合(%)
  • Nano-DSF Tonset (変性開始温度)/Tm (変性中点温度)/Tagg(凝集開始温度) (℃)
  • HIC 保持時間 (min)
  • AC-SINS pH5.5における最大吸光波長 (nm)(自己会合が促進されるほど波長が増大)
  • AC-SINS pH7.4における最大吸光波長 (nm)

これらの分析による主な相関解析結果を下記に挙げます。

  • 高い純度の(クロマトグラフィーのメインピーク割合が高い)抗体は、高い熱安定性を有する
  • 高いpIを示す抗体は高い熱安定性を有する
  • Fab表面の疎水性・電荷パッチから、HICの保持時間を予測する回帰モデルを作成可能
  • 発現量(Octet titer)と他の指標との相関は低い(わずかに熱安定性指標(Tonset/m/Tagg)と正の相関あり)

この記事での詳細な紹介は割愛しますが、本研究ではこの解析のあと、2つの抗体エンジニアリングのケースにおいて、導入した置換(フレームワークのジャームラインの変更や、1アミノ酸置換)が各種分析結果にどのように影響したかを実例として報告しています。

メルクにおける抗体医薬品の開発では、上記の評価をシステマチックに実施するプラットフォームが整備されているとのことです。具体的には、リレーショナルデータベースと、PerkinElmerの電子ノート管理システム、TIBCO spotfireによるデータの可視化ツールが連携されているそうです。

https://perkinelmerinformatics.com/products/research/signals-notebook-eln/
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