論文タイトル
Atomically accurate de novo design of single-domain antibodies
出典
要旨
ファインチューニングされたRFDiffusionで、抗原結合VHHをデザインした事例です。
解説など
RFDiffusionについてはこちらの記事をご参照ください。
一般に、従来のウェイトを利用したRFDiffusion(論文では “vanilla RFdiffusion”と表現)では、人工的に設計しやすいヘリックスバンドルなどのスキャフォールドと比べて、抗体CDRのような構造柔軟性が高く、進化情報が活用しにくい構造のデザインは精緻にできないと考えられています。
また、これまで抗体CDRデザインに特化した深層学習モデルも公開されてきましたが、以下のような制約や、未知な点があったのが現状でした。
- 抗原・抗体複合体構造(モデル)が必要
- 標的抗原に結合することが既知の抗体のフレームワーク情報が必要
- ウェット実験でデザインが評価されていない
この論文では、抗原結合と無関係なVHHのフレームワーク配列を鋳型に、標的抗原に結合するCDRのデザインを試みています。抗体デザインに対するハードルを越えるために筆者らは、RoseTTAFold のネットワークを抗体デザイン用にファインチューニングしています。
このファインチューニングモデルのネットワークを活用した RFDiffusion による、抗体デザインスキームは次のとおりになります。
- 鋳型抗体の設定(本論文では、ヒト化VHHフレームワークとして広く活用されている h-NbBcll10FGLA を使用)
- fine-tuned RFDiffusion で抗原結合CDRをデザイン
- ProteinMPNN(vanilla weight)でアミノ酸配列をデザイン
- fine-tuned RF2 モデルを指標にスクリーニング(明確は記述はないが、おそらくpAE < 10)
このアプローチを以下の標的抗原に対して適応しています。
- RSV Site III
- Influenza HA
- SARS-CoV2-RBD
- TcdB
それぞれのデザインに対して、インシリコで 9,000 配列まで絞り込み、酵母ディスプレイでウェットスクリーニングする流れです。いずれの抗原に対してもバインダーが取得できており、最も親和性の高いデザインは、HAバインダーで KD=78nM でした。
データはないものの、デノボスキャフォールドでの成績よりヒットレートは低いことが想定されますが、現実的なデザイン数で成果を出しているのは素晴らしいと思います。
今回構築されたfine-tuned RoseTTAFold2 は、モノマーの構造予測として活用しても既存のモデルである IgFold の成績を超えていることが示されています。デザインのスクリーニング用途であれば、エピトープが事前に想定できるので、ゼロからのドッキングシミュレーションより複合体構造の信頼性は高いことが想定されるので、このような結果も驚くべきことではないのかもしれません。
fine-tuned モデルはまだ公開されていませんので、もうしばらく情報の更新を待ちたいと思います。