【デノボバインダーデザイン】CRS を阻害するミニプロテインバインダーを設計した事例を紹介

論文タイトル

De novo design of miniprotein antagonists of cytokine storm inducers

出典

De novo design of miniprotein antagonists of cytokine storm inducers - Nature Communications
Here, the authors computationally designed and produced small protein antagonists to target IL-6 and IL-1β signaling to develop modulators of CRS.

要旨

サイトカインストームを抑制するミニプロテインバインダーを設計した事例を紹介しています。

解説など

この記事では、デノボバインダーデザインの実施例を紹介します。筆者らはサイトカインストームによる急性炎症反応を抑制するためのシグナル阻害剤の開発を試みています。具体的な標的抗原は、IL-6R / GP130 / IL-1R1 の3種類です。IL-6 リガンドによる JAK/STAT シグナルは、受容体である IL-6R と GP130 を介して誘導され、IL-1β による MyD88/p38 シグナルは、IL-1Rap と IL-1R を介して誘導されます。そこで筆者らは、各々の受容体に結合するアンタゴニストバインダーの設計を試みました。

トシリズマブ(抗 IL-6R 抗体)など既存の抗体医薬品は半減期が長いため、急性期の応答に対応するには不都合です。サイトカインストームは、SARS-CoV-2 などのウイルスによっても引き起こされますが、免疫の本来の役割としてウイルス感染に対する抵抗性が失われないことが重要です。そこで筆者らは、分子量の小さいスキャフォールドを採用することで、短半減期の分子を作製することを目指しました。また既往の研究から熱安定性の高いデノボスキャフォールドを作製できることが知られていることから、製剤面でのハードルが低くさまざまな投与形態を視野にいれた分子を計算機ベースで設計できることが期待されます。

具体的なデザインプロセスは、Rosetta suite を用いたコンベンショナルな手法を採用しています。

  • エピトープ選定
    • 天然リガンドの結合サイトを標的エピトープに指定
    • エピトープ内の疎水性残基を選択
  • スキャフォールド探索
    • RIFドッキングソフトウェアを用いて RIF を生成
    • Patchdock を用いてミニプロテインスキャフォールドライブラリーをエピトープ残基に剛体ドッキング
  • 配列設計
    • Rifdock を利用して側鎖間相互作用を最適化
    • RosettaFastdesign を利用して配列最適化
    • RosettaMotifgraft を利用して多様化
    • RosettaFastdesign を利用して再度配列最適化
    • (生成された配列は、65アミノ酸残基以下)
  • 計算機スクリーニング
    • 以下の Rosetta metrics で選抜
      • ddg < -40
      • contact_patch > 150
      • ss_sc > 0.8
      • worst9mer < 0.4
      • mismatch_prob < 0.07
      • contact_molecular_surface > 400
      • sap score < -2.4

各抗原に対して、100,000 デザインを酵母ディスプレイとそれに続く FACS/NGS でスクリーニングすることで、以下の数のバインダーを取得しました。

  • IL-6R: 1,016
  • GP130: 914
  • IL-1R: 216

さらに結合強度で各上位 50 クローンについて、それぞれ site saturation library を合成し結合増強改変を探索、さらにそれらの改変を組み合わせた combinatrial library を合成してスクリーニングすることで、親和性増強デザインを同定しました。

結果的に、いずれの抗原に対しても single nM 以下の親和性のデザインを同定することに成功しています。

デザインの手法について新規性は乏しいですが、採用されている手法や複数回の親和性増強改変探索を実施していることから、最終デザインを取得するまでに、長期間を要していることが想像されます。公開データとしては、vitro での活性確認までなので、動物試験における動態データが取得されることに期待したいです。