【抗体デザイン】CDR3の構造柔軟性を予測できる ITsFlexible を紹介!

論文タイトル

Predicting the conformational flexibility of antibody and T-cell receptor CDRs

出典

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要旨

抗体の CDR3 の構造柔軟性を予測する手法 ITsFlexible を紹介した論文です。

解説など

先日の記事から引き続き、オックスフォード大学の Deane ラボからの論文です。本ブログでもタンパク質の多状態を予測する手法は数多く紹介してきました。

本論文は、タンパク質の柔軟性を定量的に評価していることと、対象を抗体/TCRの CDR3 に特化していることに特徴があります。

筆者らが提案する Immunoglobulins and TCRs Flexibility classifier (ITsFlexible) とは、入力した抗体または TCR の配列とその構造情報に応じて、CDR3 の柔軟性を 0~1 のスコアとして出力します。

この予測モデルを構築するためのデータセットとして、Antibody Like Loop Conformations (ALL-conformations)を用意しています。これは SAbDab や PDB から取得した、逆平行なβストランド構造に挟まれたループ構造モチーフのデータセットで、抗体やTCRだけでなく、この条件を満たすすべてのタンパク質のループ構造を対象としています。これにより、120万個の構造モデル、10万以上のユニークな配列からなる大規模なデータセットの構築に成功しています。中には1種のループ配列に対して数千個の構造モデルが存在するモチーフもある特徴的なデータです。各配列はあらかじめ、”rigid”, “flexible”, “unknown” のラベルをつけています。各配列に対して異なる構造が登録されている場合は”flexible”、データが5つ以上同じ構造が登録されているループは “rigid” に分類されます。

つぎにこのALL-conformations データを用いて rigid / flexible の分類モデルである ITsFlexible を構築しています。モデルは GNNベースです。

ITsFlexible は、ループ長や溶媒露出など物理化学的性質に基づく予測方法や、下記に示す既存の構造予測手法と比べても優れた予測成績を示しています。

  • AF2 (pLDDT)
  • AF2 MSA subsampliing
  • ABodyBuilder2 (root mean square predicted error)

また構造が未知の抗体クローン3種類に対して本手法を適用したところ、うち2つで実測と予測の一致を確認できています。外した1つに関しては CryoEM での構造決定において分子量かさましを目的として抗原・抗体複合体で構造決定したため、疑似的に CDR の柔軟性が失われてしまった可能性があると考察しています。

予測モデルの実装はこちらから。

GitHub - oxpig/ITsFlexible: Prediction of Antibody CDR and protein loop flexibility
Prediction of Antibody CDR and protein loop flexibility - oxpig/ITsFlexible