抗体の進化が明かす「エントレンチメント」について

論文タイトル

Entrenchment of germline amino-acid differences in antibody affinity maturation

出典

Entrenchment of germline amino-acid differences in antibody affinity maturation
Entrenchment — epistasis that locks in amino acid differences between homologous proteins, so each disfavors substitutions toward the other’s state — has been d...

要旨

本研究では、抗体重鎖可変領域(IGHV)遺伝子間に存在するアミノ酸の違いが、「エントレンチメント(entrenchment)」と呼ばれる相互拘束の状態になっているかを調べています。

解説など

目的

タンパク質進化では、一度定着したアミノ酸が周囲との相互作用によって「元の状態へ戻りにくくなる」ことがあります。この現象はエントレンチメント(entrenchment)と呼ばれます。

これまでの研究では、エントレンチメントは主に長い進化の過程で蓄積するタンパク質内部のエピスタシス(アミノ酸間相互作用)によって説明されてきました。

一方で抗体は少し特殊です。ヒトには約50種類のIGHV遺伝子が存在し、それぞれが異なる配列を持っています。また、B細胞がアフィニティ成熟を行う際には、数日から数週間という短期間で急速に変異が蓄積します。

著者らは、この特徴を利用して、

  • IGHV遺伝子間のアミノ酸差異がエントレンチメントを起こしているか
  • その制約は抗体内部の構造由来なのか、それとも抗原や軽鎖などとの相互作用によるものなのか

を調べました。

手法

研究では、著者らが以前開発した**DASM(Deep Amino acid Selection Model)**を利用しました。

DASMは、数百万本規模の抗体レパトリー配列と系統樹情報から、

  • 変異が起こりやすいか
  • 選択によって有利か不利か

を分離して推定する深層学習モデルです。

各アミノ酸置換に対して、

  • 正の値:有利な変異
  • 0:中立
  • 負の値:不利な変異

として「selection factor(選択係数)」を計算します。

本研究では、ある部位に存在する2種類のアミノ酸について、

  • A → B
  • B → A

の両方向の置換がともに強く不利である場合、その部位をエントレンチメント状態にあると定義しました。

結果

結果の概要は以下のとおりです

  • 同一ファミリー内ではCDRの終末部にエントレンチメントが集中
  • 構造解析では、エントレンチメントを示す部位は、抗原、軽鎖、重鎖CDR3と接触している
    • IGHV遺伝子とは独立した要素で発生する
  • Vファミリー間の比較では、抗体重鎖内部の構造的制約がエントレンチメントに関与

本知見を統合的に解釈することで、抗体ヒト化の設計など応用することができるかもしれません。