論文タイトル
Learning protein function through autonomous experimental interaction
出典

要旨
本論文では、AIエージェントが自らロボット実験室を操作して変異体を作らせ、その結果から学習を続ける閉ループシステム「PRAXIS」を開発。約1か月間・人手を介さず運転し、酵素を対象に天然にはない基質への特異性を大きくシフトさせた変異体を発見しました。
用語
- ProteinNPT:配列だけでなく、これまでに測定した他の変異体のデータも同時に参照しながら機能を予測する、Non-Parametric Transformerと呼ばれるモデル。少数の実験データからでも精度良く予測できるのが特徴です。
- UCB(Upper Confidence Bound)獲得関数:「予測される性能の高さ」と「予測の不確実性」の両方を考慮して、次に試すべき変異体を選ぶ戦略。既知の good な領域を深掘りする(活用)のと、まだよく分かっていない領域を試す(探索)のバランスを取ります。
- SCHEMA recombination:複数の親タンパク質を、構造的に壊れにくい箇所で断片に分割し、その断片を組み替えてキメラ(混成)タンパク質のライブラリを作る手法。
解説など
本論文の特徴
著者らが開発したPRAXIS(Protein Autonomous eXperimental Interaction System)は、大きく2つの要素から構成されます。
学習エージェント(計算側)は、ProteinNPTをベースにしたモデルを毎ラウンド再学習しながら、次に試すべき変異体をUCB獲得関数で選びます。目的関数には「活性 × 特異性」の積を採用しています。
自動ロボット実験室(実験側)は、リキッドハンドラー・サーマルサイクラー・プレートリーダー・冷蔵庫・ロボットアームからなる完全自動の実験系です。DNA断片の組み立て(Golden Gate assembly)からPCR増幅、無細胞発現、蛍光基質を使った活性測定までの一連のワークフローを、約10時間で自動的にこなします。
本番運用では、6つの天然GH1酵素をSCHEMA法で8断片に分割し、約168万通りの組み合わせを持つキメラ配列空間を定義。ここに、グルコース特異性を狙うAgent G、キシロース特異性を狙うAgent X、マンノース特異性を狙うAgent Mという3つのエージェントを投入しました。3エージェントは実験メモリと学習モデルを共有しており、あるエージェントが選んだ実験の結果も、他の2エージェントの学習に使われる点がポイントです。
結果
本番運用の前段として、著者らは既存の4つのdeep mutational scanningデータセットをオラクルとして使い、ProteinNPT+UCBの探索性能を、より単純な4つの対抗手法(貪欲法・MLPアンサンブルなど)とベンチマークしています。全データセットで、データのわずか0.04〜0.49%しか評価せずに高フィットネス領域へ到達できることを確認しています。PRAXISは他の手法と比べて、エピスタシスが強く、フィットネスランドスケープが複雑な系ほど、表現力の高いモデル+不確実性主導の探索の組み合わせが効いてくる、とのことです。
システムは約1か月間・25ラウンドにわたり、人手を介さず連続運転されました。この間、ロボット実験室は150の設計変異体のうち136(91%)のアセンブリに成功し、うち132(97%)で高品質な測定データを得ています。
探索の結果、ベストな親酵素と比べた特異性目的関数の改善幅は、グルコースで2.9倍、キシロースで約60倍、マンノースで約1000倍に達しました。
マルチエージェント構成の利点として、各エージェントは全実験のうち約1/3しか自ら選んでいないにもかかわらず、共有メモリのおかげで132変異体すべての情報から学習できたことは興味深いです。実際、あるエージェントが発見した最良の変異体が、別のエージェントの目的にも有効だったケースがありました。
なお、本研究で使用したソフトウェア・データ解析コードは GitHub で公開されています。

