【AbDesign】抗体のinsilicoデザイン手法の原理を解説

論文タイトル

AbDesign: An algorithm for combinatorial backbone design guided by natural conformations and sequences

出典

Proteins. 2015 Aug;83(8):1385-406.

AbDesign: An algorithm for combinatorial backbone design guided by natural conformations and sequences - PubMed
Computational design of protein function has made substantial progress, generating new enzymes, binders, inhibitors, and nanomaterials not previously seen in na...

確認したいこと

  • 抗体のinsilicoデザイン手法

要旨

標的抗原に結合する抗体をデザインするアルゴリズム、AbDesignを紹介した論文です。

用語

  • PSSM: Position Specific Scoring Matrix
  • CCD: cyclic-coordinate descent

解説など

従来のタンパク質デザイン手法で成功を収めた事例には、以下の普遍的な特徴があります。

  • 2次構造に富むタンパク質表面をもつ
  • リガンドとの相互作用は疎水性アミノ酸側鎖の寄与が大きい
  • デザインされたリガンド結合界面は比較的小さい

本研究で紹介されたAbDesignにおいては、以下のコンセプトによって、上記の制限を回避し、従来法と比べて精度の高いデザインを試みています。

  • 6つのCDRを個別にセグメント化せず、保存性の高い領域をひとつのセグメントとして、配列を扱う((i)Hl-H2周辺(VHと命名)、(ii)H3周辺(H3)、(iii)Ll-L2周辺(VL)、(iv)L3周辺(L3)の4種)
  • 構造の安定性を担保するため、天然の抗体配列をベースにデザインする
  • 抗体の安定性とリガンドとの親和性を、同時に評価して最適化する

解析ステップの概要は図1に示されています。要点は以下のとおりです。

  1. 天然の抗体構造データベースから、セグメント単位(VL、L3、VH、H3)で配列を抽出し、それぞれに対してPSSMを算出する(PSSMの説明は、以下のサイトにわかりやすく解説されています)。
位置特異的スコアマトリックス | アライメントから位置特異的スコアマトリックス PSSM の求め方
  1. 各セグメントに対して二面角(Φ、Ψ、Ω)を抽出する。上記の各セグメントのPSSMと統合し、抗体全体の単一PSSMマトリクスを作成する。
  2. 選択したVH、VL、L3スキャフォールドに対して代表的なH3をを挿入し、Fabの全体構造を組み立てる。CCDを利用して天然の抗体構造から逸脱しない構造を選択する。
  1. RosettaDockを用いて、標的抗原構造とのドッキングシミュレーションを行う。
  2. 抗原から10Å以内の抗体構造が、上記のPSSM制約条件に基づいて再設計される。
  3. エネルギーと構造を指標に複合体構造を評価し、適切な配列を選抜する。
  4. より優れた抗体配列を探索するため、4種のセグメントそれぞれに対して、新たに50種類の抗体骨格構造を適用する。
  5. ファジィ論理デザインを適用して、最適な配列を選抜する。最適化の評価関数は、結合エネルギー(EB)と安定性エネルギー(ES)の積として表現される。

本論文ではAbDesignの評価のため、既知の抗原・抗体複合体構造をベースに、その結合様式の情報だけ保持したうえで、完全に新しい抗体配列の探索を試みています。抗原結合の親和性は評価されておらず、その構造情報のみからデザインの特徴が考察されていました。要点は以下のとおりです。

  • デザインされたH3の長さは7-10残基の範囲
  • デザイン中に、一部の抗体はエピトープがシフトする
  • デザインされた配列は、大きい結合界面を有している
  • 天然には存在し得ない特徴を有する配列が、高スコア帯に存在した

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