論文タイトル
Redesigning an antibody H3 loop by virtual screening of a small library of human germline-derived sequences
出典
Sci Rep. 2021 Nov 1;11(1):21362.

確認したいこと
- 抗体CDRの溶媒露出残基を同定する技術
要旨
標的抗原に結合する抗体の、HCDR3をデザインする手法を開発
- IGMT/LIGMデータベースから、最適なH3を探索して抗体に移植
- 既存のVEGF抗体に適応し、抗原に対する親和性の改善を確認した
- H3は溶媒露出残基において、予測構造から若干の違いがみられた
解説など
抗体のin silicoデザインは、医工学分野において非常に有用です。これまでin silicoで予測したデザインを実験的に評価するスキームが数多く報告されています。
親抗体に対して活性を増強した点変異体をデザインするプラットフォームの代表に、ADAPTと呼ばれる技術があります。ADAPTを利用して1~4変異を有する抗体をコンピュータで設計することで、親和性が140倍以上向上した研究例が存在します。
また別のエンジニアリングの方向性として、抗体のフレームワーク上にデザインしたCDRループをグラフティングすることで活性を増強した例もあります。代表的な技術に、OptCDR、OptMAVEn、AbDesign、Rosetta Antibody Design(RAbD)などが知られています。
一方、これらいずれの技術においても、H3ループの構造予測難度が高いことが課題でした。このため、この研究においては、H3のエンジニアリングに焦点を当てた技術を紹介しています。本技術も、H3のループグラフティングをベースとしたアプローチとなっています。
まず、IMGT/LIGBデータベースから、5362種類の配列が抽出され、12アミノ酸以上の長さを持つ、システイン残基を含まない配列が選抜されます。次に移植元のループステムに適合するループをライブラリーから抽出します。その後ループをCDRに移植します。このときSCWRLを利用して、構造的に適した変異を導入します。
つぎは、移植したループの抗原結合性を予測してランキング化するステップです。予測のためにSIEとTalarisという2つの指標を統合したZスコアで順序付けします。SIEはおもに抗原親和性をとらえ、Talarisは抗原抗体複合体の安定性を評価することができます。
このフローにより選抜された16抗体の親和性を評価したところ、そのうち2つでは親抗体に比べて優位な親和性の改善が見られました。また選抜された抗体の構造を実験的に確認したところ、予測構造と比べて概ね構造が一致していました。ずれのある箇所の多くは、抗原との相互作用を示さない溶媒露出残基やループの先端部であったと述べられています。
RAbDが非H3領域の予測を得意とするため、本手法は既存の技術では達成できない相補的なデザインが可能であると主張しています。
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