論文タイトル
Engineering Stability, Viscosity, and Immunogenicity of Antibodies by Computational Design
出典
J Pharm Sci. 2020 May;109(5):1631-1651.

確認したいこと
抗体の発現量をin silicoで予測する手法がないか、調査しています。
要旨
抗体の物理学的性質をin silicoで予想する手法をレビューしています。
用語
- DSC: differential scanning calorimetry
- DSF: differential scanning fluorometry
- CD: circular dichroism
- APR: aggregation-prone regions
- SEC: size-exclusion chromatography
- DLS: dynamic light scattering
章立て
- 緒言
- 抗体の物理化学的・生物学的性質
- 安定性
- 粘性
- 免疫原性
- 抗体の物理学的性質の予測とエンジニアリング
- 計算科学的な予測とエンジニアリング手法の概要
- 構造安定性の予測
- コロイド安定性と溶解性の予測
- 化学的な安定性の予測
- 予測モデル構築のための実験情報が格納されたデータベース
- 計算支援による抗体の安定性エンジニアリング
- 選抜基準としてのΔΔG予測
- スーパーチャージング
- SAP
- CamSol
- Solubis
- ブラウン動力学法シミュレーション
- 粘性の予測
- 抗体溶液の粘性エンジニアリング
- 溶液中の抗体の挙動のための粗視化モデリング
- 抗体の免疫原性予測とエンジニアリング
- ヒト抗体の特徴と免疫原性予測
- 抗体のヒト化
- 展望
解説など
本レビューでは、抗体の安定性・粘性・免疫原性の3点に絞って、それらの性質を予測したり、改善するための抗体配列をデザインする、計算科学的な手法を紹介しています。
まずはじめに紹介するのは安定性です。抗体の安定性には、物理化学的な安定性と、化学的な安定性の2種類が存在します。さらに物理化学的な安定性は、立体配座安定性と、コロイド安定性の2種類に分類することが可能です。
タンパク質の立体配座安定性は、フォールディングされた状態と、ほどかれた状態の自由エネルギー差ΔGで表されます(ΔG = ΔG(unfolded)-ΔG(folded))。従って、タンパク質を安定化させるためには、フォールディングされた状態を安定化させるか、ほどかれた状態を不安定化させる必要があります。
一般的に変性状態のタンパク質はその構造が自明でなく、また単一の状態でもないため、人為的に制御することが困難です。従ってフォールディングされた状態を安定化させるために、分子内相互作用を増強することが第一選択となります。
立体配座安定性は、その分子の半分が変性する温度域(Tm)により評価されることが多いです。またTmは、DSC、DSF、サーマルシフトアッセイ、CDによって測定することができます。
一方で、コロイド安定性とは、タンパク質の凝集傾向を示す指標です。疎水性パッチを含む凝集しやすい領域(APR)が、タンパクの凝集を引き起こします。より具体的には、アミノ酸残基の疎水性と電荷が影響します。また、2次構造も重要で、β鎖はαヘリックスよりも凝集する傾向があります。
コロイド安定性は、SEC、DLSなどの粒子径分布を定量できるアッセイで測定することが可能です。
最後に紹介するのが、化学的な安定性です。これには、以下のような化学修飾が含まれています。
- Asn脱アミド化
- Asp異性化
- Met酸化
- Lys糖化
これらの化学分解は、ある程度決まったモチーフに対して修飾される傾向があるため、その配列に基づいて予測することが可能です。
次回の記事では、これらの安定性を改善するための、in silicoデザイン手法について紹介していきます。
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