【抗体デザイン】in silicoで抗体の物理学的性質を予測する手法を解説③

この記事は、前回の記事の続きになります。

最後の記事では、抗体の粘性についての予測手法を紹介したいと思います。

抗体の粘性は、治療用抗体医薬品の製剤や管理において重要な指標となります。患者への皮下投与においては、抗体の濃度を100 mg/mL以上にする必要があります。従って、濃縮された抗体溶液の粘度が高いと、製造過程で必要な期間が増し、また製剤化された抗体も不安定になります。

モノクローナル抗体の粘性は、自己の会合率に依存します。この分子間相互作用は、浸透圧第2ビリアル係数(B22)や、拡散相互作用パラメータ(kD)で評価することができます。これらのパラメータは、それぞれstatic light scatteringとDLSによって測定が可能です。これら以外にも、以下の指標が粘性を評価するパラメータとして存在します。

  • レオメータで測定した溶液粘度(η)
  • DLSからの見かけの拡散係数(D)
  • 以下のクロマトグラフィーによる保持時間
    • 疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)
    • 標準単層吸着クロマトグラフィー(SMAC)
    • クロス相互作用クロマトグラフィー(CIC)

次は粘性を予測する手法についてです。

分子間相互作用には、タンパク質の親水性や電荷が大きく影響します。Nicholsらは、TANGOとPAGEを利用してAPRを破壊する手法と、負電荷領域を中和する手法の2つを検討しました。APRを破壊するアプローチにおいては、粘度を低下させることには成功したものの、抗体自体が不安定化し、抗原結合を低下するといった結果が導かれました。一方で、電荷中和手法では、立体配座安定性と抗原結合を維持したまま、粘性を低下させることができたとのことです。

Jethaらは、MOE2016.0802に実装されているProtein Surface Analyzerを用いて、表面の疎水性をエンジニアリングし、HICの保持時間を減少させる変異体を同定しています。

タンパク質の自己会合を構造的に予測するには、粗粒モデルが良く利用されます。抗体分子を単純化して表現することで、シミュレーションの計算コストを現実的な範囲に収めることが可能です。Chaudhriらの研究により、分解能の異なるCGMDシミュレーションを検証したところ、低分解能モデルでも高分解能モデルに匹敵する精度で予測することが可能であったことが示されています。

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