論文タイトル
Computational design of proteins targeting the conserved stem region of influenza hemagglutinin
出典
Science. 2011 May 13;332(6031):816-21

確認したいこと
タンパク質ベースのバインダーデザインについて、深層学習以前の手法開発の歴史をさかのぼって調査しています。
要旨
HAに対して結合するタンパク質をデノボデザインした実施例です。
解説など
本論文公開当時の既存の手法では、デザインできるバインダーする際に、既知の複合体構造様式を参照する必要がありました。例を挙げると、天然の相互作用パートナー由来のドメインフラグメントを、デザイン分子に移植したり、それらが接触する領域をホットスポットとして同定して、その領域に対して形状相補性の高い分子をデザインするなどです。
この制限を取り除くために、筆者らは任意に選択されたタンパク質表面を標的としてバインダーをデザインする手法の開発を試みています。具体的には、計算機によるドッキングシミュレーションによって、標的抗原に接触するホットスポット残基を同定し、その領域に対してバインダーデザインすることを試みています。
デザイン手順は、大きく2段階に分かれます。
第一段階
- ドッキングクラスタを生成し、標的抗原のホットスポット残基を同定
第二段階
- 865種のタンパク質構造から、PatchDockで適合する結合モードを生成
- RosettaDockで適合性を精緻化
- ホットスポット残基に近接するデザイン領域の残基を設計
- RosettaDesignでデザインスキャフォールドの残りの領域を配列設計
筆者らは、このデザインをHAタンパク質のバインダーデザインに適用しています。初手のホットスポット残基の同定によって、HS1/HS2/HS3の3種類のホットスポットを同定しています。HS1/HS2を結合界面に含むバインダーデザインと、HS1/HS2/HS3のすべてを含むデザインの2通りを試験しています。前者から51デザイン、後者から37デザインずつを酵母ディスプレイでスクリーニングして有望な分子を選抜しています。最終的には、epPCRで活性を高めることで目的の分子をデザインしました。
本手法によって、既知の複合体構造が存在しない抗原に対しても、ホットスポット残基の同定と、その領域に対するバインダーのデザインをシーケンシャルに実行することができるようになった、という意味でマイルストーンとなる技術であったといえます。
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