論文タイトル
Sequence-specific targeting of intrinsically disordered protein regions
出典
要旨
Intrinsically disordered region (IDR) に対するバインダー生成手法を紹介した論文です。
解説など
本手法は、David Baker 研からのレポートです。Intrinsically disordered region (IDR) は構造柔軟性が高いため、既存の手法では構造予測やそれに対するバインダーデザインの難度が高いことで知られています。筆者らはこの IDR に対するバインダーをデザインする手法を開発しました。彼らの方法論の特徴は、デザインの主鎖構造の生成に深層学習モデルを活用していないことです。代わりに独自の仮説をもとに、既報の単アミノ酸やジペプチドに対するポケット生成手法を活用してデザインしています。
具体的な流れは次のとおりです。
- アミノ酸/ジペプチドに結合するポケット構造の生成
- ポケット構造のブロックをアセンブリして、テンプレートライブラリを作成
- 標的 IDR 配列を断片化して、相補的に適合するデザインをテンプレートライブラリから探索
- 配列を最適化
あらゆる IDR 配列に適用できるようにデザインスキャフォールドを準備するステップが1と2で、標的となる特定の IDR に対してデザインを生成するステップが3と4です。1と2の準備を終えてしまえば、個別タスクをこなすためには3と4を実行するだけで済みます。
この手法の特徴的な点は、前半のテンプレートライブラリの作成方法にあります。筆者らは特定のアミノ酸を認識するポケットを組み合わせて延長することで、任意の IDR 配列に結合できる分子を設計できると仮説を立てています。
ポケットの生成には、既報の手法である “superhelical matching approach” が採用されました。この手法の詳細は原著論文に記載されていますので、割愛します。

筆者らは、まずLK, RT, YD, PV, GA という5種類のジペプチドに対するポケットを生成することを試みました。アミノ酸は性質の重複性が高いので(疎水性残基間の性質は類似するなど)、この5種それぞれに類似するペプチドやどちらか一方のアミノ酸に結合するデザインも、これらから生成されたデザインを鋳型に結合できると推測されます。
さらにこのポケットブロックを、任意の長さの IDR に適用できるように組み合わせて1000個の構造を生成しました。これが探索に使用するテンプレートライブラリとなります。
ここから標的 IDR に結合するテンプレートライブラリを探索する際には、まず標的 IDR を 4-30 アミノ酸残基程度に断片化して、既存のライブラリと類似性の高いペプチド配列と、そのバインダーテンプレートを探索します。その後バインダー配列の最適化は ProteinMPNN を、デザインのスクリーニングには AF2 を利用しています。
筆者らはこの手法を最終的に 43 種類の標的 IDRに対して適用しています。各標的に対して 3-70 種類のデザインを生成したところ、うち 39 種の標的に対してはバインダーを取得することに成功しています。この成功率の高さの理由として、この手法でデザインしたバインダーは induced hit 様式で結合していることが挙げられます。IDR の構造不安定性を逆手にとって、デザイナーが指定する相互作用様式に誘導することがカギのようです。
本手法を用いれば、本来難度の高い極性残基に対する結合界面を生成することも可能かもしれません。また将来的にライブラリを拡張すれば翻訳後修飾モチーフに対するバインダーもデザインできることでしょう。