論文タイトル
What has AlphaFold3 learned about antibody and nanobody docking, and what remains unsolved?
出典

要旨
AlphaFold3 による抗原・抗体複合体構造予測性能を評価した論文です。
解説など
AlphaFold3 の初報で、抗体・抗原複合体のドッキングシミュレーションが60%程度の成功率でできることを報告されていました。これは既存の手法に比べて圧倒的に優れた成績です。本論文では開発チームとは異なる第3者目線から、改めて AF3 がどれくらい抗体・抗原複合体予測に活用できるか評価しています。筆者は、IgFold を開発した Jeffrey J. Gray のチームです。
彼らはまず、既存の手法である IgFold, AF2-Multimer, AlphaRED と AF3 のドッキング予測精度を評価し、既報のとおり AF3 がほかに比べて優れた成績を示すことを確認しました。ドッキングの予測精度は H3 の長さで大きく変わらないとのことです。
ドッキング成功率は、やはり H3 の構造予測精度に大きく影響をうけるとのことで、H3 の RMSD が低いほど、DockQ スコアが高くなる傾向にあります。妥当なドッキングモデルを得るには、最低でも 3.5Å 以下の H3 RMSD が必要そうです。ちなみに抗体単独の H3 RMSD は、AF3 でも1Å を切るものは少ないとのことでした。抗原が結合することによる H3 ループの構造変化は 1Å 以内だといわれているので、ループ構造予測そのものの精度は AF3 でもまだ改善の余地があると言及されています。
H3 のループが長くなるほど、H3 の RMSD が抗原存在下で低くなるのも面白いです。抗原結合による制約が H3 の構造柔軟性を低下させていると考えられます。
AF3 により、抗原・抗体複合体モデルの予測性能が向上したことは間違いないでしょう。抗体スクリーニングに実用される事例が増えることが期待されます。