論文タイトル
Target-conditioned diffusion generates potent TNFR superfamily antagonists and agonists
出典

要旨
TNFR に対するバインダーデザインを事例に、広い結合界面を標的としたバインダーデザインの成功率を高める工夫について言及した論文です。
解説など
Baker 研からの最新レポートです。本論文では TNFR に対するバインダーをデノボでデザインした実施例を紹介していますが、その背景となる課題にはフラットで極性を示す標的界面へのバインダー設計があります。RFDiffusion で unconditional に生成した構造は、ヘリックスバンドルの生成頻度が高く、広い面積に対して広範に結合するインターフェースを生成することが困難でした。TFNR1 は疎水性残基が28 Å も離れたところに存在しますので、近接した領域内で協調した疎水性相互作用を設計するのが困難です。実際に Cao et al. のアプローチでは TNFR1 に対するバインダーは失敗しており、RFDiffusion でもトライした経験があるとのことですが、65 アミノ酸のスキャフォールドライブラリでガイドしてもうまくいかなかったとのことです。
そこで筆者らは、あえてガイドすることなくランダムノイズから構造を生成することで、標的抗原の形状にマッチしたインターフェースを設計できると考えてチャレンジしました。具体的には ランダムガウシアンノイズ を TNF の結合界面に配置して、120 残基の主鎖構造を生成しています。配列設計は ProteinMPNN で、構造予測は AF2 を活用しています。拡散タイムステップが 120-200 では構造が収束してしまうとのことで、それよりも前のステップからも構造をサンプリングし、最終的にpae_int < 7.5 かつ plddt > 80 のデザインを 96 種選抜して、ウェット評価に進めています。生成された構造モデルは抗原との接触面積や SASA の観点から、過去の実施例のデザインに比べて優れていたとのことです。
ウェット評価の結果から、うち 90 個が発現し、6 種は標的抗原に結合活性を示していました。親和性の高いもので KD が 29 nM や 24.5 nM のデザインを取得することに生成しています。これらのバインダーは TNFR スーパーファミリーの別のタンパク質には結合せず、すぐれた標的特異性を示したとのことです。
さらに affinity maturation として、設計したバインダーを鋳型に partial diffusion を行うことで、< 10pM の KD のデザインを取得することにも成功しています。鋳型配列によって affinity maturation の効果は大きく変わるとのことで、伸びしろのあるデザインかどうかを判断することも重要そうです。
またさらなる実施例として、ここで得られたバインダーを鋳型に、TNFRSF の別のタンパク質に結合できるバインダーを設計できるか試みています。TNFR2, OX40, 4-1BBの 3 種に対して 25,000 のトラジェクトリーを生成して評価に進めることで、各標的に対するバインダーの設計に成功しています。
これらの標的の中でアゴニストをデザインするという目的においては、OX-40 と 4-1BB は膜抗原を介した細胞間架橋でシグナルを誘導するメカニズムですので、可溶性のリガンド設計事例はありませんでした。そこで筆者らは先述したバインダーを、同じくデノボデザインしたホモオリゴマー分子に融合することで、可溶型の多量体分子を設計しました。C1 ~ C8 まで多様な対称性をもつオリゴマー分子を使用したところ、アゴニストをデザインするには各標的に対して適切な対称性のオリゴマーを選択する必要があることが明らかとなりました。4-1BB では C5, C6、OX-40 では、C3-C8 のオリゴマーを利用することで native ligand に比べて優れたアゴニスト活性を示すバインダーを取得することができたとのことです。
広い結合界面を示すバインダーデザインに関する Tips だけでなく、人工アゴニストのためのオリゴマーデザインまで幅広く、過去に成功事例のない成績を示した素晴らしいレポートです。