論文タイトル
AI-guided design of common light chains to enable manufacturable bispecific antibodies
出典
要旨
AI駆動の構造予測と設計手法を用いて bispecific antibody (BsAb) の製造上の最大の課題である light chain (LC) mispairing を解決する方法を提案しています。
解説など
BsAb の共通L鎖をインシリコで探索するアプローチの紹介です。筆者らはSAbDabに含まれるVL配列の中から対象のBsAbのVHに対して、適切なVL配列を選抜し、さらにRosettaデザインに基づいて最適なVL改変を導入する手法を提案しています。
手法の流れは長文のため最後部に記します。まず構造予測とMDシミュレーションにもとづく特徴量から、対象のVHと適合性の高いVLを選抜します。さらにB4のステップでは multi-state Rosetta design を利用して2つのVHを同時に扱い、「VH_A-VL」と「VH_B-VL」の2状態の同時最適化問題を解いています。
結果として、10標的抗原中、7標的で設計に成功したことを示しています。
手法
B1. Antibody–antigen interface analysis(VH–VL解析とVL抽出)
- 入力:SAbDab由来の3,639構造(分解能 < 3.0 Å)
- 各構造について VH–VL–抗原の界面領域を抽出し、物理化学特徴(疎水性、H-bond数、SASA、残基ペア距離)を統計化。
- 得られたデータをもとに、VL配列プールを「VH結合モード類似度」でクラスタリング。
これにより、既知VLの再利用候補(Tier1)およびde novo設計候補(Tier2)が抽出される。
B2. Structure prediction & validation(構造予測と統計的信頼度評価)
- モデル化:Chai-1 v0.6.1 を用い、VH–抗原拘束(restraint)付き構造予測を実施
- 各VH–VL組み合わせで5モデル生成。
- ipTM/pTMスコアで構造の信頼性を評価。
- 基準:
- pTM > 0.7
- ipTM > 0.7
- RMSD < 2.0 Å(構造的整合性)
これにより、構造的に実在し得るVH–VL配置のみを通過させる。
B3. MD-based stability analysis(分子動力学による安定性スクリーニング)
- 手法:GROMACS v2024.5 + AMBER FF14SB を使用して各モデルあたり 6 ns × 10本の独立シミュレーションを実施。
- 評価指標:
- VH–VL界面の相互作用保持率 ≥ 70 %
- RMSF(平均揺らぎ)< 1.0 Å
- Cα RMSD < 2.0 Å
- 脱落基準:
- 界面のH-bondまたは疎水相互作用が半数以上消失するモデルは除外。
この段階で動的安定性が低い構造を除き、熱揺らぎに耐えるcLC候補のみ残る。
B4. Rosetta-based design optimization(界面設計と再最適化)
- 目的:VH–VL相互作用を維持しつつ、双方のVHに適合するcLC配列を最適化。
- 手法:Rosetta v3.13 により、サイドチェイン再配置(repacking)+多状態最適化(multi-state design)。
- スコア基準:
- sc_value > 0.6(界面スコア)
- packstat > 0.65(充填率)
- ΔΔG_interface < 0 kcal/mol(結合自由エネルギー改善)
2025.10.11.681265v2.full
この段階で、Rosetta設計によるCDR-L1/L2/L3の変異導入を伴い、複数VHに対して安定化するVLを探索。
B5. Final candidate ranking & selection(総合スコアリングと最終候補選抜)
- 統合スコア:各ステップの結果を重み付き統合(w1–w5)で総合スコア化。
- α₁:構造信頼度 (pTM, ipTM)
- α₂:MD安定性
- α₃:Rosetta界面スコア
- α₄:MM/GBSA binding energy(終段階の自由エネルギー計算)
- α₅:Germline使用頻度・開発実績(e.g., IGKV1-39 優先)
最終的に MM/GBSA ΔG_binding が最も良好な上位20体をターゲットごとに選出。これらが実験検証対象として合成・発現に回されます。

