【バインダーデザイン】IDR をもつ RAS アイソフォームを特異的に認識するバインダーをデザイン

論文タイトル

De novo design of Ras isoform selective binders

出典

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要旨

RAS アイソフォームに対する特異バインダーをデノボで設計した事例を紹介しています。

解説など

RAS バインダーのデノボデザイン事例です。RAS バインダーデザインの難しいところはそのアイソフォームが複数あることと、それらを識別できる領域が IDR かつ極性残基を多数含むところにあります。具体的には RAS には次に示す4種類のアイソフォームが存在し、そのC末領域に特有の配列をもちます。

  • KRAS4A
  • KRAS4B
  • NRAS
  • HRAS

筆者らは、各アイソフォームを選択的に認識できるバインダーデザインのため、次の2つのアプローチを活用しました。

  1. side-chain centered (hotspot centric)
  2. backbone centered (dock and optimize)

1.は hotspot centric 的なアプローチで、対象の IDR に対して適合する鋳型タンパク質を logos library から探索する手法です。具体的には先日の記事で紹介した IDR バインダーデザインの手法を活用しています。

2.はスキャフォールドの主鎖構造に基づいて IDR と適合するデザインを探索する、dock and optimize的なアプローチです。こちらはさらにアプローチが2つに分かれ、一つは 200種ほどの β シートを含むスキャフォールドライブラリから探索する方法、もう一つは 標的配列のみを入力してゼロから RFDiffusion でバインダーを設計する手法です。

以上いずれかの手法で生成されたバインダー構造は、Partial RFDiffusion、Motif RFDiffusion、Parametric perturbation を活用してさらに最適化されます。配列の設計は ProteinMPNN、インシリコスクリーニングは AF2(pae, plddt, iptm)、RosettaΔΔG で実施されています。

結果として、対象のアイソフォームごとに成功率の高いアプローチは異なっていたとのことです。

大まかにいうと、scaffolded and sequence input RFDiffusion は、標準的な2次構造をもつ主鎖構造を生成する傾向にあるため、KRAS4A と NRAS のような β シート配列には有利で、KRAS4B と HRAS のような 6 x Lys やプロリン残基をもつ構造には適合しにくいとのことでした。

最終的に、各アイソフォームに対して次の手法、デザイン数で候補配列を設計して、酵母ディスプレイでバインダーをスクリーニングしています。

  • KRAS4A: 8,317 (5,254 from sequence input and 3,063 from scaffolded RFDiffusion)
  • NRAS: 3,078 (343 from sequence input and 2,735 from scaffolded RFDiffusion)
  • KRAS4B: 2,556 designs using the amino acid recognition pocket based approach
  • HRAS: 1,264 designs using the amino acid recognition pocket based approach

KRAS4B と NRASは、デザイン時に考慮しなかった full-length の RAS には結合しなかったとのことで、全長構造をもとにデザインに Motif/Partial RFDiffusion を適用することでバインダーを取得しています。

最終的に、~250 (KRAS4A)、~90 (NRAS)、~20 (KRAS4B) 個のバインダー取得に成功しています。HRAS に対しては言及がないので、うまくいかなかった可能性が高そうです。

本研究結果から、複数の設計アプローチと全長構造を参照する重要性が伺えました。徐々に IDR や極性残基に対するバインダーの成功事例が増えていることは素晴らしい進歩と思います。